2013年7月23日火曜日

Melusine(本)

ドイツの画家、ユリウス・フブナーによるメリュジーヌ。出典
【書誌情報】
Lynne Reid Banks, Melusine, 1988, Puffin Books他

【あらすじ】
フランスの「メリュジーヌ伝説」に取材したヤングアダルト小説。夏休みに両親と双子の姉妹とともにフランスを訪れたロジャーは、古城に宿泊する。塔のある大きな城は荒れていて、今は鬼のようなセルペ氏と、十代の娘、メリュジーヌが山羊を飼って細々と生活していた。ロジャーは年の近いメリュジーヌと仲良くなり、共に山羊の搾乳をしたり、ボートを漕ぎに出かけたりする。しかし古い城には秘密があり、ロジャーは夜中に異形のものの気配を感じる。

【コメント】
A.S.バイアットのブッカー賞受賞作、『抱擁』は非常におもしろい小説で、詩、伝説、過去と現代が絶妙に交錯する読み応えのある一冊でした。『抱擁』ではメリュジーヌ伝説が効果的に使われていて、そこから興味を持ちましたが、この伝説について書かれた本は日本語ではあまり見つけられませんでした。リード・バンクスのMelusineはメリュジーヌゆかりの地に滞在したイギリスの少年の一夏を書いています。

リード・バンクスは『リトルベアー』シリーズとブロンテ姉妹の伝記小説がおもしろかったですが、本作は期待はずれでした。山羊を飼って父親と古城に暮らす少女のメリュジーヌは、おそらく伝説上のメリュジーヌの遠い子孫で、彼女もまた夜中に蛇に変身します。父親のセルペ氏は没落した貴族であり、娘の他に家族もなく近所から孤立し、貧しく不衛生な生活をしていることから少し頭がおかしくなっており、メリュジーヌは父親の性的虐待を受けています。

親による子供の搾取、特に性的虐待などできれば避けて通りたいテーマで、仮に取り扱うのであれば、よほど慎重にしないと、単に不快な虚無感にとらわれるだけなのに、ちょっとこの小説では重いテーマを大雑把に扱いすぎている感があります。「虐待される少女」と「メリュジーヌ伝説」と「中産階級の少年の夏休みの冒険」という三つがうまく絡んでいないようにも思いました。家庭は円満で、裕福な家の主人公のロジャーに比べ、メリュジーヌの置かれている状況は過酷です。にもかかわらず、全体としては恵まれているロジャーがメリュジーヌを見物し、手を差し伸べようとはするものの、結果的にはメリュジーヌに助けられるという構図になっているのも腑に落ちません。

メリュジーヌ伝説は恩を仇で返されたので、翼を生やして飛んで行ってしまう(川に飛び込みゆくえをくらます)という話でした。自力で自分を開放したのに、「こうするのが一番いいんだよ」と言って、本人の意向をきかずに善意からメリュジーヌの先行きを決めようとする大人たちの前から彼女は姿を消します。伝説ではその後メリュジーヌはセイレンになったそうで、本書でもヒロインのその後についての記述がありますが、こういった物語はラストが霧の中に吸い込まれるように曖昧なのが魅力であり、敢えてその後に言及する必要はないのではないかと思います。

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