2012年1月19日木曜日

Beauty(本)

【題材、書誌情報等】
「美女と野獣」フランス民話
Robin McKinley著、 Harper Collins社刊、1978年

【あらすじ】
Beautyは裕福な商人の三人姉妹の末娘です。その綽名にもかかわらず、姉二人は美人ですが、Beautyは美しくありません。父親の船が遭難し、一家は突然貧乏になります。父親が旅に出た帰路で道に迷い、魔法にかかった城で末娘へのお土産としてバラの花を折りとったため、城の主である野獣に娘の一人を差し出せと要請されます。そこで末娘は城に赴き、野獣と暮らすことになりました。

【コメント】
 原作と異なる点は
  • ヒロインは美しくない
  • お姉さん2人とも仲良し。最後に石になったりしない。
  • お姉さんたちの結婚についての記述もある。
等、いくつかありますがほとんど元の話の枠組みから逸脱しておらず、単に細部の描写を詳しくして話を冗長にしただけという感があります。暇つぶしにはなっても、目が覚めるほどおもしろいというわけではありません。同じ題材の再話だとドナ・ジョー・ナポリの『野獣の薔薇園』の方が複雑で、野獣の屈折した思いが書かれていて良かったです。

それにしても、おとぎ話には女の視点で語られる、女に都合の良い話が多い(目立つ)気がします。語り伝えてきたのが女性が多かったのだとすれば、当然の結果かもしれません。

【野獣はどんな姿だったのか?】
ところで、この物語に登場する野獣はどんな姿だったのでしょうか。

コクトー映画ではライオンのような特殊メイク

エドマンド・デュラックは人間に近い姿で描き

ウォルター・クレインの描く野獣はイノシシのよう


ウォリック・ゴーブル描く野獣はロバに似ています

 一番気味が悪いのはアン・アンダーソンの描く野獣です。他のイラストレーターの野獣は毛が生えた哺乳類が多く、怖いとか変な感じはありますが、ぬいぐるみのようでもあり、一緒に食卓につくことも許容できそうです。一方、アンダーソンの野獣は気持ち悪くて、目の前にこんな怪物が座っていたら何も喉を通らなさそうです。こんな巨大化した爬虫類のような野獣を見てしまったら、王子様に変身した後でも、愛せるかどうかは微妙なのではないでしょうか…
ちょっとこっちに近寄らないでよ
【おすすめ度】
★★★☆☆



『去年マリエンバートで』(映画)

影は地面に描いたそうです
【題材】
フランスの伝承

【あらすじ】
ロココ風の装飾を施された城のようなホテルに宿泊する人々の中で、謎めいた美女Aは男Xに誘惑される。「去年フェリクスバードでお会いしましたね」しかし、AはXに会ったことはない、と言う。

【コメント】
四つの異なる視点のストーリーを一つにつなぎ合わせたとのことですが(Wikipedia)、やっぱり訳が分かりません。それで、本を購入し、海外版DVDに収録されている当時製作に携わった人々のインタビューなども見てみたのですが、結局「この映画はどういうことなのか」に対する明確な答えは見つけられませんでした。分かったことは「ヒロインを演じるデルフィーヌ・セイリグの髪型は、当初もっと別な感じになる予定だったが、彼女が勝手に散髪をしてしまったので、あの髪型に変更したものである。ただ、結構人気が出た」ということくらいです。

それはさておき、確か本の解説に、「死神が若い女性を連れていこうとする。彼女は『1年待ってくれ』と言ったので、死神は1年後に再びやってきて、連れていく」というフランスの伝承が下敷きとなっている、というようなことが書いてありました。とすると、この映画のストーリーは
妻であるAが避暑地マリエンバード(かどうかは分からない)で、(X氏と?)浮気をしようとしていることに気付いたAさんの夫M氏は、妻の浮気現場に突入してAさんを殺そうとする。ただ、Aさんは完全に死ななかったのか、この世に未練を残していたのか、意識の上ではAさんはまだ生きていて、1年間、それまでどおり生きているかのように意識が彷徨していた。そして1年後に死神X氏と再会した時には、既に自分は半分死んでいるということを忘れているが、X氏は曖昧な理由でぜひとも自分と駆落ちしようと言って、Aさんを黄泉の世界に連れていく。
 
という解釈ができるかもしれないと思いました。

まあ、全然違うかもしれません。直接的に死が語られることはないのですが、ホテルの宿泊客は動きが少なく、無表情で時折カメラが止まったりもするため、全員既に死んでいるようでもあります。終わりが見えないようなパイプオルガンの音楽や、重苦しい建物など、随所から死のにおいが感じられます。よく分からないストーリーではありますが、映像は悪夢のようでもあり、美しくもあります。とりあえずこの雰囲気に浸かれれば良いのではないかと思いました。

【おすすめ度】
★★★★★

2012年1月10日火曜日

Brothers Grimm and the Sisters Weird

ウォリック・ゴーブル「かえるの王様」
【題材、書誌情報等】
グリム童話
Vivian Vande Velde, Jane Yolen Books Harcourt Brace & Company,1995

【あらすじ】
「ルンペルシュティルツキン」、「かえるの王様」、「赤ずきん」、「ヘンゼルとグレーテル」等々、グリム童話その他のおとぎ話のアダプテーション13篇。

【コメント】
「ルンペルシュティルツヘン」や「赤ずきん」の再話もある、ヴィヴィアン・ヴァンデ・ヴェルデによるおとぎ話です。『六つのルンペルシュティルツキン』のStraw into Goldも収められています。ヤングアダルトではなく、小学生を読者として想定しているようで、英語はやさしく、かなり読みやすいです。痛快で軽い語り口です。ただ、大人が読むには少々物足りないか?ちょっと深みに欠ける気がします。

【おすすめ度】
★★☆☆☆





2012年1月9日月曜日

au bon painのマフィン

au bon painはチェーン喫茶店とパン屋です。近所のショッピングモールでクランベリー・クルミマフィンを買ってみました。クランベリーは酸味が強くて甘味はほとんどないベリーです。そのまま生で食べても酸っぱいだけなので、クランベリーソースやジュースにします。感謝祭やクリスマスに食べるローストした七面鳥にはクランベリーソースを添えることが多いですが、クランベリーソースはジャムに近いものなので、肉にかけて食べてもあまりおいしいとは思えません。
日本でもドライクランベリーは時々見かけます。ドライクランベリーは甘く味付けしてあります。ピンクがかった赤い綺麗な色で、お菓子作りに使われます。
買ってみたマフィンは、生のクランベリーが使われていました。マフィン生地が甘いので、クランベリーの酸味がアクセントになっていておいしかったです。クルミも、そのまま食べても魅力を感じませんが、パンや、マフィンのような柔らかいお菓子に入れると深い味になって良いものです。アメリカとしては珍しく、おいしいお菓子でした。日本のデパ地下などで売られている、クリームやチョコレートなどで飾ってガラスケースに展示されているケーキは、芸術作品のように美しく、食べてもおいしく(そしてフトコロには痛い)素晴らしいものだと思いますが、私はマフィンのように粉の割合が多いケーキも好きです。紅茶やコーヒーに合いそうです。

2012年1月7日土曜日

As Once in May

ファッション関係のコピーライターをしていた時期もあったそうです
【本の紹介】
Frost in May(『五月の霜』みすず書房)四部作等の著作のあるAntonia Whiteの自伝等の作品集です。生前に出版されなかった原稿を、死後に娘さんのSusan Chittyが編纂しています。内容は、四部作の主人公のその後の物語、短篇、『五月の霜』のモデルとなったローハンプトンの聖心女子修道会学校や、小説にも登場する二人の大叔母、旅回りの劇団に参加した時の回想記、及び4歳までの時期の自伝です。

【コメント】
Antonia Whiteの小説は、「人は年月を経て変化するものだ」ということと、「人は多面的で複雑なものだ」ということを繊細な筆致で書いています。本書は『五月の霜』シリーズの番外編として楽しめます。ほとんどの作品に自伝的要素が入っています。作者自身が非常にドラマチックで小説らしい人生を送った人なので、どの作品も内容が濃いです。また、White自身の文章から想像される作者の人となりと、他人(娘)が書く母親の姿はかなり異なるイメージで、その点もこの作者の興味深いところです。

「初めて旅回りに参加したときのこと」(The First Time I went to the Tour)という回想記に含まれている、ゲイの男性とのエピソードが印象的です。小説ではSugar Houseに、役者体験について書かれてありますが、このエピソードは省略されています。
「エヴァ(作者の演じた役の名前)、お願いしたいことがあるんだけど。…君はいつも、他の女の子たちとは違って見えるよ。他の子達よりも理解があるよね」私は溜息をついた。「何を頼みたいの?」…ジミーは一息に言った。「僕はいつもデレクに嫉妬しているんだ。あいつは素晴らしく文化的な奴だ。それに芸術的だし。あいつの作る素敵なクッションカバーを見たまえ。ああ、僕もあんなことができたらいいのに。エヴァ…君を煩わせたくはないんだけど…僕に、かぎ針編みのやり方を教えてくれないかしら?」
自伝のAs Once in Mayでは、短編集Strangeresに収められている「ローズ伯母さんの復讐」に書かれていることは一部実話との記述があります。経済状態が良くなかった祖父が、娘を家庭教師として自活させるべくウィーンに送り、5ポンド渡して「お前にやる最後のお金だよ」と言います。そして、父親は娘を、老いて家庭教師として勤められなくなった老婦人たちのホームに連れて行き、「お前が結婚しない限りたとえ何が起ころうとも、屋根の下に暮らせるという満足感を得られるだろう」と言います。当時の家庭教師の給料はコックよりも低く、労働環境は過酷だったようです。父親が18歳の娘にオールドミスとして生涯オールドミスとして薄給で勤め続けることを運命づけ、しかもその事実をわざわざ見せるのですね、涙。

 Antonia Whiteの著作の素晴らしいところは、内容の面白さもさることながら、文章の簡明さにあると思います。分からない単語が1頁に2、3個はありますが、いちいちその意味を調べることに一生懸命にならなくても全体を把握することはできます。それに、英文を頭から読んで、ほとんどの場合は一度読めばすっと内容を理解できます。私は英文を日本語のようにスラスラ読めるわけでもないため、洋書は面白さと読みやすさを兼ね備えていないと、読んでいるのが苦痛になってきます。その点、この人の文章はほとんど英文を読むことの煩わしさを忘れさせてくれるほど魅力があって読みやすいです。

2012年1月3日火曜日

『ソフィー』(本)


【題材、書誌情報】
「青ひげ」 ペロー童話
ガイ・バート著、新潮社刊、2009年

【あらすじ】
ロウソクの灯りに照らされた部屋で、マシューは椅子に縛り付けた姉のソフィーに、自分たちの幼少時代について語るように迫る。なぜソフィーは縛られているのだろうか?並外れた知性を持った姉に見守られたマシューの幼少時代とその終焉とは?20年前の夏に一体何が起こったのだろうか? ソフィーとマシューの語りによりそれらのことが徐々にあかされる。

【コメント】
ミステリーです。過去と現在が、ソフィーとマシュー(マティー)により交互に語られます。両親に半ば見捨てられているものの、美しく賢い姉と過ごす日々は閉ざされた楽園のようでもあります。ヒイラギの木のうろに作った隠れ家、悪夢にうなされたときに作ってもらったオレンジエード、化石探し、姉が暗号で記す日記等々の魅力的なエピソードが登場します。全体が甘く悲しい雰囲気に包まれており、しかも続きが気になって本を置くことができないストーリーの面白さもあります。
ただ、私の読解力の不足のためか一度読んだだけでは分からない点が多々あります。「マシューの悪夢は何だったのか?」、「なぜ母親も死んでしまったのか?」とか。謎が謎のまま残るのもいいのかもしれません。
なお、「青ひげ」のアダプテーションのようなシーンは最後の方で少し登場します。動画は作品中でソフィーが歌う「ボロを着たジプシーたち」(Raggle Taggle Gypsies)です。一度聴いたら忘れられない、物悲しいメロディです。失われた美しい子供時代という本作品のテーマに合っていて、小説を読みながらBGMにこの音楽をかけると、ソフィーとマティーの姿がくっきりと印象付けられるように思います。

【おすすめ度】
★★★★★