2014年1月30日木曜日

銀星石


時々、鉱石を買います。ヴンダーカンマーに興味を持ち、鉱石を収集したいと思いました。とても奥の深い世界だと思うので、お金をつぎ込みすぎて破産しないように注意します。

ペンシルヴェニア州産の銀星石を買いました。石は丸く緑色で、円の中心部分から細い繊維のような結晶が放射状に伸びています。「銀の星」という名前も美しいです。届いたときは上のような姿でした。繊維状の結晶の様子がよくわかり、これはこれでおもしろいですが、肝心の銀星石は母岩の間に挟まっているので、中がどうなっているのか、気になって仕方がありません。数百円のものだったので、思い切って割ってみることにしました。褒められたことではありませんが、メインの石が一番見えていない部分を、包丁の峰で数回叩きました(ハンマーを持っていなかった)。

そうしたところ、母岩が柔らかい砂岩だったので簡単に割ることができて



二つの標本を取り出しました。まさかこんなものが隠れているとは思いませんでした。今年一番のオドロキです。こうしてみると、割る前には結晶のほんの一部分しか見えていなかったことが分かります。鮮やかな緑が現れて、うれしく思いました。

The Time of the Angels(本)

【書誌情報】
Iris Murdoch, The Time of the Angels, 1966

【あらすじ】
第二次世界対戦直後のロンドン。英国国教会の牧師、キャレルは、24歳になる娘のミュリエルと原因不明の病気で床を離れられない美しい姪のエリザベス、使用人のパティ、革命によりロシアから亡命してきた門番のユージーンと共に暮らすが、「神は死んだ」と言い、牧師としての勤めを果たさず、来客も一切受け付けない。しばしば牧師を訪ねてくるアンシア・バーロウは常に門前払いされ、兄や姪を心配して訪れる弟のマーカスすらも、追い払われる。異国で疎外感を持つユージーンは、黒人との混血で自分をアウトサイダーとみなすパティに共感し、好意を抱く。息子のレオ以外の家族を亡くし、孤独なユージーンの心の拠り所となっていたのは、ロシアから持参した聖三位一体のイコンと、パティとの友情だった。しかし、息子は虚言癖のあるトラブルメーカーだった。レオと知り合ったミュリエルは、囚われの姫君のごときエリザベスの存在を打ち明け、レオは会わせて欲しいとせがむ。ある日、ユージーンのイコンが忽然と消える。

【コメント】
マードックの小説には時に、善いところが一かけらもないような邪悪な人物が登場し、物語の中心的役割を果たします。たとえば、The Green Knightのルーカス、A Fairly Honourable Defeatのジュリアスなどが挙げられます。そういった人物は優れた容姿に加え、並外れた頭脳と魅力を持ち、周りの人々を巧みに操り、忌み嫌われるどころか、人々に尊敬され、愛され、心配される対象です。本作では、無神論者である牧師のキャレルがその人にあたります。

キャレルは「神は死んだ。現在の信仰では天使が台頭した」と高尚なあまりよく分からない話をしているだけで引きこもって何もせず、同居の姪、エリザベスは病人で家から一歩も出ず、娘のミュリエルは父親から就職活動をするように促されているものの、従妹の看病と詩作に打ち込むニートです。使用人のパティは門番のユージーンと交流を深めますが、牧師とその家族に束縛されており、本人もそのことを強く意識しています。エリザベスの原因不明の病気は、どうやら仮病であり、他の人々も薄々そのことを感付いていますが、最大の庇護者であるキャレルはむしろ彼女を積極的に閉じ込め、世間との接触を断たせようとします。もちろん、そこには牧師のよからぬ意図が働いています。

パティも含む牧師一家は世間から孤立している分、結束の固い共同体のようですが、実のところディスコミュニケーションの塊で、お互いのことを理解していません。それぞれ異なる思惑を持ちながらも、黒い中心のようなキャレルに、同居する人々のみならず、弟や隣人も惹きつけられます。しかし、キャレルの力とは無関係のところにいるユージーンとレオの父子が、聖三位一体のイコンを媒介として一家に接触すると、共同体は中心を失い、内側から決定的に崩壊します。
After all there was no salvation, no one to call the lapsed soul or weep in the evening dew. The house had fallen down. Nothing was left to Pattie except a last desire to tear and destroy.
キャレルには愛情と見せかけた嗜虐性によって拘束され、ミュリエルには敵対視されていたにもかかわらず、牧師一家から逃れられないと感じていたパティが崩壊を目の当たりにしたとき、彼女は'last desire to tear and destroy'を抱き、これまでに混血の使用人という立場のために抑圧させられていた感情が噴出します。

本書における崩壊は大きな音をたてて崩れ落ちるがごときものではなく、映画で急に無音になる時のような印象です。強固で重厚に見えていたものが、実際は舞台装置のように中身がスカスカで、簡単に壊れるかのような。その呆気なさは、キャレルの求心力によってのみ、つながっていた共同体の脆さを示しているのでしょう。キャレルが語る宗教観は私には理解できませんでしたが、難しいことを言う割に、その行動は倫理に欠けているので、彼の話の本質も、弱く薄いものだったのかもしれないなと思います。崩壊は開放でもあるのですが、爽快感はありません。キャレルを巡るミュリエル、エリザベス、パティという女性たちは、邪悪な存在が拠り所であったためか、芯がなく、ラストに不安が色濃く残ります。

アンドレイ・ルブリョフ「聖三位一体」

パレフ塗

白鳥の湖
ユージーンとレオのペシュコフ父子はロシアから亡命してきました。イコンの他、パレフ塗りの箱や、チャイコフスキーの音楽といったロシアのものが描写されます。女性達にとってキャレルが中心であったように、イコンとロシアの思い出がユージーンの核であるようです。イコンは絵でしかありませんが、キャレルの存在と対照的に書かれています。キャレルは音楽を愛好し、ユージーンはイコンを大切にしていることや、家族との関係においても、frailなものとsolidなものが対比されているのだろうと思います。それらはパティによって少し近付きますが、最終的には全く混じり合うことがなく、そのことが重い読後感の一因となっているようにも思います。

2014年1月28日火曜日

1月の花・ネコヤナギ

マリア様にはお花が似合います


買い物に行ったとき、夫がネコヤナギを買ってくれました。英語ではpussy(子猫) willowと言い、ドイツ語ではdas Weidenkätzchen(ネコヤナギ)と言うそうです。この銀色ですべすべした毛は、やはり猫にしか見えません。冬空にこの毛皮は暖かそうです。


子供のころ、家にあったエルンスト・クライドルフの絵本の中の、ネコヤナギを描いた一枚が印象的です。花を擬人化したイラストレーションといえば、グランヴィル、ウォルター・クレイン、エルサ・ベスコフ、クライドルフなどが思い浮かびます(シシリー・メアリー・バーカーも人気がありますが、個人的にはちょっと勘弁してほしいです)。いずれも、植物を写実的に描いているところが魅力だと思いますが、クレインやベスコフがひたすら美しい、かわいらしいのに対し、グランヴィルやクライドルフは植物と一緒に昆虫(それも、普段目にするよりも拡大された)を好んで描くためか、時にグロテスクでもあります。ネコヤナギの絵はかわいらしく、ユーモラスで、好きな一枚です。

最近読んだThe Year of the Floodで、薬草などに詳しいヒロインが病人に「ケシとヤナギを飲ませた」という記述があって、ケシは分かるとしてもヤナギは何だろう?と思い、調べると沈痛作用があることを知りました。 ネコヤナギを煎じて飲めばネコになれるだろうと思います。

2014年1月24日金曜日

禁断のライスプディング


"What do you hate most?" asked Fred.
"Spiders and rice pudding."
(L.M.Alcott, Little Women)
ライスプディングを検索すると、検索候補で「ライスプディング まずい」というのが真っ先に検出されます。お米を牛乳で甘く煮るというのは考えただけでも抵抗があるし、夫は嫌がると思ったので、昼間に作ってこっそり食べてみました。インディカ米を使い、カルダモンを入れてインド風にしました。

全部食べられる自信はなかったので、レシピに書いてあるよりも少なめで作りました。レシピには温かいまま食べるように書いてあるので、まずは作りたてを食べてみました。まずくて食べられないほどではありませんが、特別おいしくはないです。牛乳を熱することによりたんぱく質が分離し、食感が大変悪くなります。二口くらい食べると気持ち悪くなりました(それは充分まずいと言えるのではないか?)。もともと牛乳は飲まないので、こういった牛乳中心のお菓子もあまりおいしいと思えません。温めた牛乳なら、ミルクティーやココアの方がいいと思いました。次に冷やして食べてみました。西洋式のライスプディングは冷やして食べるようです。牛乳の臭いは温かい時よりは感じませんが、また食べたい味ではないです。ライスプディングはインドやヨーロッパだけでなく、アジアの他の国々でも広く食べられているようです。日本でもおはぎは甘いし、甘いお団子や餅菓子も多くありますが、米と乳製品という組み合わせはやはり良くないと思います。炊いたお米でもできると思いますし、あえてインディカ米を使う必要もないようで、手軽に作れるので、話の種とか、怖い物見たい、という方はぜひどうぞ。

2014年1月21日火曜日

The Year of the Flood(本)

バビロンの空中庭園
【書誌情報】
Margaret Atwood, The Year of the Flood,Bloomsbury Publishing, 2009

【あらすじ】
Oryx and Crakeで、疫病を生き残ったスノーマンがラストシーンで見た、焚火のまわりの三人は誰だったのか?
巨大な権力を持つ、悪の中枢のごときコープスコーに支配される世界。豪奢な生活を送る科学者たちのコンパウンドとは対照的な、貧しいプリーブランド出身のトビーは不幸ないきさつで両親を亡くす。原材料不明の肉を使用する怪しげなバーガーショップ、シークレットバーガーに勤め、そのサディスティックな経営者のブランコに無理やり愛人にさせられる。命の危険を感じたトビーは逃げ出し、アダム・ワンが率いる菜食主義者のカルト集団、「神の庭師たち」に加わり、屋上の菜園の庭師となる。「神の庭師たち」は農産物の自給自足や廃物利用で暮らし、アダム・ワンは「人類を破滅させる、ノアの洪水の再来のような第二の洪水に備えよ」と説く。トビーはそこでカリスマ的なゼブや、少女レンと出会うが、ブランコが自分を追っていると知り、逃れて高級スパのマネージャーとなる。母親がゼブと駆落ちしたことにより幼少期に「神の庭師たち」に加わったレンは、後に母親に連れられてコンパウンドに戻るが、長じて「鱗と尾」に就職し、鱗の着いた全身タイツを着て空中ブランコに乗るコールガールとなる。そこでレンはクレイクやオリクスと出会う。

【コメント】
マーガレット・アトウッドのサイファイ三部作、MaddAddamシリーズの、Oryx and Crakeに続く第二作です。本作の主人公はコンパウンドで科学者の子息として物質的には不自由なく成長したジミー(スノーマン)とは反対に、貧しい地域でカルト宗教団体に所属するトビーとレンという二人の女性です。各章はアダム・ワンのスピーチ、トビー視点からの回想、レンの語る回想という構成になっています。はじめはOryx and Crakeと同じ時期の、別の場所での関係ない登場人物たちの物語のようですが、話の進行に従って徐々に前作の登場人物たちが顔を出し、最後はOryx and Crakeのラストにぴったりと重なります。前作よりも読みやすいとはいえ、アトウッドの英語は難しく、描かれる「世界の終わり」はなかなかに悲惨です。しかし、本書を最後まで読むと、前作で曖昧だった部分や、見えなかったものが、異なる角度から見ることによってくっきりとした輪郭や色彩、立体感を帯び、緻密で奥行きのある世界が立ち上がるような思いがします。

スケールの大きな世界と、細部とをバランス良く書き込んでいて破綻がなく、絵画の傑作を見たときのような感動をおぼえます。おもしろい細部の一つは、聖書への直接的な言及です。カルト宗教団体の庭はディストピアにおけるユートピアであり、庭師たちは廃屋の屋上に菜園を耕作してEdencliffと称し、集団内の指導的な立場にあるメンバーに「アダム/イヴ・番号」という称号が与えられます。屋上菜園は私にはエデンの園だけでなく、バビロンの空中庭園をも思わせました。トビーはアダム・ワンの説く「神の庭師たち」の教義に疑問を抱いていますが、回想の中では、庭は楽園なのでした。

サイファイ的な小道具として、遺伝子操作により創造された異様な動物たちや、カニバリズム、顔まで隠れる鱗付きの全身タイツなどがあります。特に印象的だったのは、トビーが卵子提供をするシーンです。文学で(文学以外でも)女性がギリギリまで困窮すると売春するというのはよくあることで、実際、本書のもう一人のヒロインであるレンはコールガールとなりますが、トビーは最終手段として卵子を提供し、摘出手術に失敗して「あなたはもう妊娠・出産はできません」と言われます。最近はインターネット上でも、あたかも手軽に一定のお金を得る手段であるかのように卵子提供がさかんに宣伝されていて、見る度に違和感という以上のものがあるのですが、現代社会こそがサイファイじみているのであって、アトウッドは今のこの世界と充分つながりのある世界として、本作を書いたのだろうと思いました。ありそうもない物事の隙間から時折顔を出すリアリティにひやりとします。行き過ぎた遺伝子操作や殺し合いゲームの観戦なども本当はそこまで「ありそうもない」ことではないのかもしれません。

トビーはやや皮肉な視点を持った知的な現実主義者で、レンは無垢で子供っぽい少女です。二人の対照性は文体の違いにもあらわれていて、トビー視点の物語は三人称で客観性があり、レンの物語は語彙もあまり洗練されていない、子供らしい語り口の一人称です。いずれも、教育があるものの、錯乱ぎみのスノーマンの語りとも、やたらと壮大なことを言うアダム・ワンの説教とも違っていて、使い分けが興味深いです。この世の終わりにおける、二人の心理の機微は精密に書かれていて、方向性の異なる女性らしさがうかがわれます。レンの母親のルサーン、レンの友達で抜け目ない美人のアマンダ、庭師仲間のヌアラや、ジミーのルームメイトでもあったバーニスなど、複数登場する女性キャラクターがそれぞれに個性的で、女の見本市(?)の様相を呈しています。クレイク、スノーマン、アダム・ワン、ゼブ、ブランコ等々のキャラクターも立っていますが、性格描写は女性たちと比べると粗いように思います。共通点のほとんどないトビーとレンですが、トビーはストーカーから身を隠すために(整形)、レンは面識のある人々から逃れるために、また顔が認識されることによる危険を避けるために(鱗スーツ)アイデンティティを隠します。アマンダは「生き延びるために、IDを捨てた」と述べており、女性のアイデンティティ問題も本書のテーマの一つとなっています。アトウッドはフェミニストらしいので、この点について分析するのも意味がありそうですが、分析はさておき、私はトビーが頭に羊の毛を植える整形をし、羊の臭いにひかれて、朝、目が覚めたら猫が頭を舐めていた、というのがユーモラスだと思いました。

英語のレッスンの課題図書として読んだので、先生にいろいろな言葉遊びについて教えて頂きました。たとえば
  • CorpSeCorps 表向きは会社(corporation)の結合体だが、恐怖政治により死体(corpse)を大量生産しているという裏の意味がある
  • painball paintballという実在するゲームをもじっている。作品中では死刑囚が殺し合い、人々がテレビでその様子を観戦するというもの
  • Rejoove co. rejuvenate「若返らせる」に由来
  • Anoo Yoo A New Youをもじっている
などです。

日本語訳は出版されていませんが、本書を読むと『オリクスとクレイク』がいかにもやもやした雲をつかむような話だったことか、と思うのでぜひとも2巻以降の出版が必要と思います。

三部作完結編のMaddAddamを読書中です。疫病によって人々が死に絶え、スノーマン、「神の庭師たち」と新人類クレイカーが生き残った世界で何が起こるのか、楽しみです。一緒に読んだ夫のレビュー

2014年1月19日日曜日

Inventing the Abbotts(『秘密の絆』)

【基本情報】
Inventing the Abbotts=『秘密の絆』、1997年
監督 パット・オコナー
出演 ホアキン・フェニックス、ビリー・クラダップ、リヴ・タイラー他

【あらすじ】
ジェイシーとダグは年の近い兄弟で、弟のダグは自分は兄との共通点は少ないと思っているが、兄には「俺の踏んだ轍ばかり踏むのはやめろ」と言われる。兄弟は街の長者の娘である三人姉妹、アリス、エレノア、パメラに憧れ、ジェイシーは姉二人と付き合う。しかし、アボット氏は兄弟の両親と確執があったために、ジェイシーを嫌い、娘たちに交際を禁じる。

【コメント】
本作は、『80年代アメリカ女性作家短篇選』に収められているスー・ミラーの「アボット家を創造する」という短篇が原作です。映画は当時売り出し中だった(?)リブ・タイラーがヒロインを演じる他、美人女優をそろえた青春もので、日本でもそれなりに話題になっていたと思いますし、原作も、短編集の中で一番印象に残っていますが、日本語タイトルが『秘密の絆』だったので、映画と原作の関係は最近初めて知りました。こんな似ても似つかない邦題をつけられても、分かるわけがありません。

原作を読んだのが5年以上前なので、私の記憶が曖昧な部分もあるのですが、映画を見て「こんな話だっけ??」と思いました。細部からリブ・タイラー演じるアボット家の三女のキャラクター、結末に至るまでかなりの改変がなされています。原作は微妙でほろ苦く、ストーリーの要となるのが実は兄弟でもアボット姉妹でもなく、兄弟の母親だった、というところがおもしろい構成になっています。でも、映画の方は脚本としてはまとまりがあってきれいな「オチ」も着いているものの、あまり微妙さをすくい上げていなくて、フラットな青春ラブストーリーなのが残念でした。三人姉妹を演じるジョアナ・ゴーイング、ジェニファー・コネリー、リブ・タイラーはそれぞれに違ったタイプの黒髪美人で、私はセクシーな次女を演じるジェニファー・コネリーが好みでした。

スー・ミラーの小説の日本語訳はほとんど出版されていませんが、アメリカでは読書会でもよく取り上げられる作家のようです。『80年代アメリカ女性作家短篇選』は中古で安く手に入れることができ、良作ぞろいでお勧めです。



2014年1月17日金曜日

「驚異の陳列棚」完成


昨年のクリスマスに夫が壁掛式キュリオケースをプレゼントしてくれました。既に持っているものを陳列すると、空室があったので、鉱石や貝殻などを買い足し、陳列棚を完成させました。


左上は紅水晶のうさぎです。木彫りのクマと石彫りのうさぎのどこが違うのか、と言われると答に窮します。昨年、泉鏡花を10冊ほど読んだので、買いました。鏡花は向かい干支である卯にちなみ、うさぎグッズをコレクションしていたそうです。鏡花のコレクションは新聞に掲載されるほどすごいものだったそうです。数年前に金沢へ旅行した時のお目当ての一つは鏡花記念館で、そこにうさぎコレクションが展示されていることを期待していたのですが、残念ながらありませんでした。

右上は蛍石です。蛍石は産地や色によって値段が変わります。ヨーロッパやアメリカ産地のものは中国のものより高価です。実物は写真よりも緑がかった色です。

右下の白い石はスコレサイトです。形のおもしろさからか、自然史博物館などにもっと大きな結晶が展示されていることが多いです。子供の時踏んで遊んだ霜柱にそっくりだと思いました。これを見ると、いつも靴の裏のザクザクとした感触を思い出します。


地球ゴマ以外は、海にまつわる物です。左下はサンゴに見えますが、方解石の結晶です。ウニの殻と同室にあるのは蛍石で、波のような色だと思います。蛍石はいろいろな表情を見せるのがおもしろいです。右上のハライトは、うすいピンク色で層になっている結晶がきれいですが、岩塩なので日本のような湿気の多いところだと簡単に溶けてしまうそうで、手に入れたことを少し後悔しています。


魚眼石、蛍石、ホネガイなど。ホネガイは英語ではVenus combというそうです。鉱石などはミュージアムジェルで固定しています。この地域は地震はほとんどありませんが、ミュージアムジェルを使うと不安定でも見栄えの良い角度で固定することができます。

もしも宝くじが当たったら、世界中を旅行して珍しいものを収集し、ヴンダーカンマー博物館を開くのが夢です。三渓園や大河内山荘に行って、大きな財産を築いた人が、大規模で誰の目にも美しいものをつくり、それを一般に公開するというのは、世の中を美しくする、すばらしいことだと思いました。日本に美術館はたくさんあるところ、ヴンダーカンマー博物館的な施設は珍しく(インターメディアテクというのもあり、いつか行ってみたいですが)、芸術品ほどには価値の高くない珍品の収集の方が見込みがある気がしました。なお、私は宝くじを買ったことはなく、大金持ちになれる可能性は皆無です。

Met store でお買い物



年が明けたらカレンダーを買おうと思っていたので、メトロポリタン美術館のミュージアムショップから通販で買いました。カレンダーやクリスマスカードはクリスマスを過ぎると半額に、1月6日の公現節を過ぎると75%割引になります。1月半ばまでカレンダーがないのは不便ですが、割引率が大きいので、少し待ちました。そんなわけで、カレンダーは次の年の1月まであるものが便利です。
1月のテーマは「青」
カレンダーは毎月テーマ別に美術館の所蔵品の写真がついているものにしました。毎日違う美術品が割り当てられていて、全部で350を超える画像があるので、バラエティに富んでいて楽しいです。1枚1枚の絵は小さいですが、興味を持った作品はこれをきっかけにインターネットで画像検索します。

クリスマスカードはメロッツォ・ダ・フォルリのリュートを弾く天使のものと、絵本のイラストレータのデユヴォアザンのものにしました。各10枚入りです。これならクリスマス前にホールマークで貧相な写真つきのクリスマスカードを買うよりも安くておしゃれです。今回は買いませんでしたが、今の時期はアドヴェントカレンダーやクリスマスオーナメントも定価の何分の一という値段で投げ売りされています。ただ、安売りだけにさすがに回転は早いです。

2014年1月13日月曜日

ロールケーキ


ロールケーキを作ってみました。卵の泡立てだけが面倒ですが、それ以外は簡単にできます。スポンジケーキを作ったとき、食感が固いようなボソボソのような感じでおいしくなく、今回も戦々恐々としていたのですが、バターではなくサラダオイルを使い、卵を別立てにし、水分(牛乳)を加えるシフォンケーキのレシピを使ったところ、しっとりとキメの細かい焼き上がりになりました。スポンジケーキは温度管理が難しく、シフォンケーキの方はやや適当に作ってもうまくできるようなので、この方が作りやすいと思いました。

抹茶を少し入れてみました。残量が少なかったので、2グラムほどしか入りませんでしたが、もっと濃い緑色になるくらい入れる方が良いと思います。材料が少ないだけに、下手な材料を使うと味が悪くなります。今回はWhole Foodsで買ったお高い卵やクリームを使ったので、おいしかったです。


このハンドミキサーはamazonで安かったので買ったのですが、使う前に24時間ほども充電しておかないといけないので、使いにくいです。道具というのは使いたいときにすぐに使えないと、意味がないです。

A Severed Head(本)

オーデュボンの鳥
 【書誌情報】
Iris Murdoch, A Severed Head, Penguin Books, 1961

【あらすじ】
ワイン商のマーティンは美しい妻と若く魅力的な愛人を持ち、「自分は世界を手に入れたようなものだ」と考えるほど人生に満足しきっていたが、妻のアントニアに「精神分析医のパーマーと結婚することにしたので、離婚してほしい」と言われる。妻の離婚宣言は晴天の霹靂だったが、マーティンは紳士らしく穏やかに対応しようと決める。アントニアの依頼でパーマーの妹を駅まで向かえにいくことになったマーティンは、魔女のようなオナー・クラインと出会う。オナーは神出鬼没で、行く先々に現れてはマーティンを翻弄する。

【コメント】
アイリス・マードックの小説はできるだけ読んでコメントを書こうと思って読んだのですが、本書はがっかりするものでした。ひたすらワインとウィスキーと痴情のもつれが主題で、男3、女3の主要登場人物が、最終的にはほとんど全部の相手と関係を持ちます。マードックの作品の特徴は、物語が7割以上進んだ時点で、すべての伏線を回収しつつ、圧倒的な力ではっとさせられるような結末へ導くところにあると思うのですが、本書に関しては9割以上進んでもいっこうに着地点が見えません。最初から最後まで「AはXと関係を持った。次にYと関係を持った。それから自分の本当に求めるものはZの愛であると気付き、最終的にZの元へ行った」というつまらない話に終始しています。後期の作品に見られる、物語のスケールの大きさや、知的で刺激的な部分もあまりなくて、マードックはこんな凡庸な小説も書くのか!とさえ思いました。

印象的だったのは、奇妙なつかの間の交流しかなかったものの、主人公であるマーティンが強くひかれていたオナー・クラインとの別れの描写です。こういった、人間の心理の微妙さを繊細に書くところがマードックの良さかなと思います。
In that instant a communication passed between us, and even as it did so I reflected that it was perhaps the final one. I did not imagine it; she gave me a very slight shake of the head and a curtain came down over her eyes.It was a decisive and authoritative farewell: (...)It was our first and last moment of intimacy, vivid, but concentrated to a solitary point. 
タイトルの「切られた首」は学者であるオナー・クラインがマーティンに対して、「あなたにとって、私は未開民族にとっての切られた首のようなものだ」という、よく分からないような分かったようなことを言うのに由来しています。また、主人公の愛人が自殺未遂をするシーンが本書のハイライトになっていて、その直前に愛人は自分の長く厚い褐色の髪の毛を切って、細長い箱に入れて主人公に送ります(怖)。小包に入っていたのは髪の毛だけでしたが、切られた頭を送ってきたという連想も可能であると思います。

ただ単に「読みました」という事実を作るだけの読書になってしまった気がします。著者がマードックでなければ、途中で読むのをやめていました。私の読解力のなさが悪いのですが、こういう読書に果たして意味があるのか、分かりません。なお、トップ絵の「オーデュボンの鳥」の版画は主人公と奥さんが家にずっと飾っていたもので、離婚に際しての財産分配で、二人の一番の関心の対象でした。最終的には複数枚あったものを二分割しましたが、自分のお気に入りを持っていかれてしまった、とわだかまりを残します。本書の結末もまさにそのように、あまりすっきりしないものです。

2014年1月11日土曜日

A Word Child(本)


あまりうまい絵付ではない気がするが

真似して描いたらしいこれはちょっと酷すぎる。腕が生えている位置がおかしいし、顔がへのへのもへじ。
(ボストン美術館所蔵。本文と関係ありません)

【書誌情報】
Iris Murdoch, A Word Child, Chatto & Windus, 1975

【あらすじ】
ヒラリー・バードは貧しい孤児で、妹とともに恵まれない少年時代を過ごす。しかし、彼は語学に天賦の才能を示し、オックスフォード大学に学び、研究者の仲間入りをする。自らの才能と努力により惨めな境遇を脱却し、栄光の道を駆け上るかに見えたが、オックスフォードの先輩、ガンナーの美しい夫人と不倫関係に陥った上に、とりかえしのつかない過ちを犯す。ヒラリーはこれをきっかけにアカデミックから身を引き、公務員として地味に貧しく勤める。彼は栄光への未練を捨てたかのようだったが、常に鬱屈した思いを抱えていた。ヒラリーには変人ではあるものの、一途なガールフレンドのトミーがおり、最近は「ビスケット」と名乗るエキゾチックな美人が自分に接近してくるのが気になっているところである。一方、ガンナーは研究の世界から離れつつも、各方面で華々しい活躍を見せ、ヒラリーとの間には十数年間交流がなかった。ヒラリーは自分の上司としてガンナーが就任すると聞き、動揺する。

【コメント】
冒頭からマードックらしく複雑に絡み合う100人ほど(大げさ)の登場人物が入り乱れ、饒舌であり、始め2~3割は主人公の退屈そうな公務員生活と、魅力のうすいガールフレンドとの関係が延々と綴られ、あまり乗れません。でも、才能があったにもかかわらず、ヒラリーがそれを活かして成功しようとしなかった経緯が語られると、俄然おもしろくなります。

先輩であるガンナーの夫人と不倫の恋をして身を滅ぼしたヒラリーですが、長い間音信不通だったガンナーが上司として就任すると、運命が過去をなぞらせるかのように自分を導いていると考えます。興味深いのは、全篇、主人公が一人称で語っているにもかかわらず、同時に突き放した第三者の視点を感じることです。主人公は嫌味な性格で、自分だけが並外れた知性を持ち、他の人たちの何倍も苦しんでいるが故に特別で重要だ、という思いと、人生の落伍者であるという思いが折り重なって屈折しています。嘲笑と劣等感が常に表裏一体の自分語りはちょっといたたまれない思いがしてくるほどですが、主人公に共感の余地はなく、読み手と語り手の間のギャップの存在を意識させます。

緻密に構築したカタルシスを、無残に180度ひっくり返して、主人公が冒頭にいた場所よりも悪いところに沈んでしまうという、重たい内容です。主人公が救われたように錯覚したのは、実は自然発生的なものではなく、純粋でない思惑の下、薄氷の上に巧妙に作り上げられたカタルシスでした。故に、軽い力で持ち上げただけでシーソーのように跳ね上がり、はずみで極寒のテムズ川に落ちて死にそうな思いをして、救われないのも無理もないかもしれません。マードックは、The Good Apprenticeでも意図しない殺人と贖いをテーマとしていたところ、本作でも同様のテーマを扱っています。両作品において外部からの救済はありえないのですが、本作では救済自体が不可能である、という暗澹とする結論が提示されていて、400頁読んだ挙句にそんなことを言われるのは辛いと言わざるを得ません。

マードックの小説の中心となる登場人物はオックスブリッジ出のインテリであることが多いです(マードックはオクスフォード出身で、ケンブリッジにも在籍していたことがあるそうです)。その人たちはその人たちで思い悩んだり理屈をこねこねしたりして楽しそうなのですが、他の登場人物と比べると学がなくて、単純で率直で、心が清らかな登場人物が脇役で登場し、肝腎の場面で目覚ましい行動に出る、ということがよくあります。本書では主人公の妹、クリスタルがその役目を担っています。ヒラリーとクリスタルは非常に近しい間柄ですが、本質は正反対です。陰鬱な内容で、登場人物は屈折した変な人ばかりですが、クリスタルの存在だけがかすかにキラッと光るようで、Crystalという名前にはちゃんと意味があるのだろうと思わされます。

2014年1月2日木曜日

アップルプディング



アップルパイは「アメリカンパイ」と言われる、アメリカの代表的なお菓子です。パイ皮を作るのはレベルが高いし、冷凍パイシートはマーガリンが含まれていることが多く、あまり好きではないので私はもっと手軽なアップルプディングを作ります。私はリンゴ多めで、フィリングにシナモンを入れて作るのが気に入っています。

【材料】
  • リンゴ 1~3個
  • 砂糖 大さじ1
  • シナモンパウダー 小さじ1/2
  • レモンジュース(リンゴに酸味があれば不要) 小さじ1
  • バター 40g
  • 砂糖 45g
  • 薄力粉または中力粉 80g
  • ベーキングパウダー 小さじ1
  • 卵 1個
【手順】
  1. バターを室温に戻し、粉、ベーキングパウダーをはかってふるう。
  2. リンゴを食べやすい大きさに切り、砂糖とシナモンパウダー、レモンジュースをまぶす。しばらくして水が出てきたら、ラップをして電子レンジで2分、加熱する。この上に生地を乗せて焼くので、リンゴをはじめから電子レンジ、オーブン可の容器に入れて作ると良いと思います。
  3. バターをすり混ぜ、砂糖を加える。さらに、卵を加える。
  4. 3.の生地に粉を加えてさっくり混ぜる。
  5. 生地をフィリングの上に乗せて、170℃のオーブンで20分焼く。爪楊枝をさして生の生地が付いてこなければ、焼きあがり。
簡単に作れるし、砂糖も少なめに使います。焼きリンゴの上にホットケーキが乗っている感じです。熱いまま食べるので、寒い時期に良いデザートですが、冷めてもおいしいです。アップルプディングという名前もなんとなくおいしそうです。外は氷点下の寒さなので、温かいデザートがうれしいです。

ロシアン新年会


あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。写真は昨年、ウィーンの王宮前で撮影したものです。


大晦日はロシアのお友達の新年会にお邪魔しました。ロシアではクリスマスよりも新年を盛大に祝うそうです。クリスマスはユリウス暦で1月に祝う、と言っていました。カモやサケなどをごちそうになりました。私は炒飯とブラウニーを持参しました。ロシア料理はアメリカ料理よりも手が込んでいて、特別なイベントの時のごちそうは朝に調理を始めて夜に食べる感じだと言っていました。


ロシアにはサンタクロース文化は根付いていないそうです(「KGBを怖がって来ないんでしょう」と言っていました)。代わりに「霜の老人」が来て、子供たちにプレゼントを配ります。私たちは名刺入れとアトマイザーを頂きました。

外国にいると親兄弟と新年を過ごすことは難しいですが、新しく出会った人たちに珍しいお話を聞いて過ごすのも新鮮で楽しいものです。