2014年6月3日火曜日

グランヴィル「スミレの擬人化」



ドイツから、グランヴィルの『花の擬人化』の一枚、「スミレ」の版画を購入しました。本を解体して販売されたようです。販売者によると、1867年に刊行された本から取ったものだそうですが、絵は一枚だけなので、その証拠となるようなものはなく、本当かどうかは分かりません。版画の技法も不明ですが、網目が見えないので、オフセット印刷ではないようです。蛍石は、絵とは関係ありませんが、たまたま色合いが似ていて面白いと思いました。

グランヴィルは、2011年に練馬区立美術館で見た、鹿島茂先生のコレクション展で知りました。神経質な雰囲気のある、細い線で描かれたイラストは幻想的ですが、人間の体に頭だけ動物のカリカチュアや、植物を擬人化した一見少女趣味のような絵と共に、大きな昆虫が描き込まれているものはグロテスクでもあります。

カリカチュアは着想の奇抜さはあるものの、自宅に飾りたいとは思いません。ただ、グロ要素のない作品は軽やかで美しいです。色数少なく、淡い色で彩色されていて、背景は無彩色であるのも、涼しげで、風や温度の存在を感じさせる効果を生んでいるように思います。「スミレ」はとりわけ、女性の顔もかわいらしくて好みです。スミレの芳香は、葉陰でお香を焚いているからだ、というストーリーのようです。

グランヴィルは挿絵画家として成功したものの、収入は少なく、家族には次々と先立たれ、晩年は狂気に陥り、43歳の若さで亡くなる、という悲劇的な生涯を送りました。作品に狂気の萌芽が窺えるのかどうか、私には分かりませんが、ちょっと常人には思いつかないようなユニークな絵が多いです。絵に描かれた人物は、19世紀半ばのヨーロッパの美人に典型的な、「卵型の顔、大きな瞳、小さな唇、ふっくらした腕に小さな手」という特徴を踏襲しつつも、ややバランスが崩れたような、独特な容貌です。

なお、『花の擬人化』は、グランヴィルの友人、ドロール氏が物語を書きましたが、フランス語版は300頁あまり、日本語訳『花の幻想』は230頁であるところ、英語版は60頁程度しかなく、文章、イラスト共に大幅に省略されているようです。フランス語が読めるに越したことは無いのですが、英語版よりは日本語版の方が良さそうです。

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