2014年4月18日金曜日

The Prime of Miss Jean Brodie(本、映画)

Anna Pavlova


【書誌情報】
Muriel Spark, The Prime of Miss Jean Brodie, Macmillan,1961
=『ミス・ブロウディの青春』、岡照雄訳、筑摩書房

【映画】
The Prime of Miss Jean Brodie,1969 『ミス・ブロディの青春』

【あらすじ】
エディンバラのマーシア・ブレイン女子校に勤務するオールドミスのブロディ先生は、「今が私の最盛期。この時期を私は教育に捧げ、皆さんを一流に育てる」と豪語する。先生お気に入りの6人の生徒たちは「ブロディ・セット」と呼ばれてとりわけ信頼され、先生の引率で外出したり、お茶に招かれたりもした。ブロディ先生は芸術への関心が強く、同僚の教師との恋愛沙汰もあり、お堅い教師陣とは一味違う存在だった。6人は小学生の頃は先生万歳だったものの、次第に違和感を強める少女もいた。最終的には中の一人の「裏切り」により、先生は退職に追い込まれる。裏切ったのは誰だったのか、また、彼女はなぜ先生を裏切るに至ったのか。

【コメント】
小学校から大学まで、公立の共学に通ったので、男子校・女子校に憧れがあり、「男子校・女子校もの」の小説や映画が大好物です。本書は、6人の少女たちが10歳でブロディ先生と出会い、中年に至る現在までを描く中編です。時系列は一直線に進まずに、小学生の頃のエピソードが語られたと思えば、ブロディ先生の取り巻きの一人が若くして死んだ話に移り、かと思えば別の登場人物の現在の所感が述べられ、そこへ女学生だった頃の妄想物語が顔を出すなど、視点がめまぐるしく転換しますが、不思議と読みにくさはありません。

ブロディ先生は「今が私の最盛期」と自分で言うところからして、かなり変な人です。マッケイ校長先生をはじめとする堅苦しい教師陣や、旧弊な教育に新風を…というと「いい話」になりますが、そうは行かないのが本書のおもしろいところです。ブロディ先生は授業を潰して自分の恋愛体験や休暇の話をして、正規の教育を怠り、芸術に造詣が深いような顔をして偏見と個人的嗜好を披瀝し、挙句の果てには生徒にファシズム思想を吹き込みます。彼女の言うところの「一流(creme de la creme)」って何だったんでしょう、と思います。ブロディ先生を目の上の瘤のように思っているマッケイ先生は、さりげない風を装って生徒からブロディ先生に不利な情報を集め、ブロディ先生は先生で校長先生の思惑を「ブロディ・セット」から聞き出し、お互い、水面下で着々と準備(何の?)を進めますが、結局、ブロディ先生は行き過ぎだ、と考えた生徒により、マッケイ先生の全面勝利に終わります。恋愛に関しても、一見したところ、ブロディ先生が弄んだようで、実は他の人たちの方が上手でした。

女子校という設定からすると、背景に花が咲いていそうな、華やかで甘いイメージがありますが、ミュリエル・スパークの語り口はスパイスが効いていて、意地悪く、ドライです。6人の少女の中には、美少女や秀才もいますが、彼女たちは脇役に過ぎず、中心となるのは容姿と性格の悪いサンディで、しかも彼女の容姿の悪さは何度も繰り返されます。劣等生のメアリーが、その頭の悪い行動故に、早逝したことも強調されます。甘さや華やかさとは程遠い内容で、ブロディ先生にも、取巻きの生徒の生徒の誰にも、共感できる余地はなく、徹底して突き放しているのが痛快です。中編の長さに納めているのも、ピリッとして小気味よく感じます。無駄がなく、密度が濃いです。高校生の時、退屈な副読本を何冊も読みましたが、こういうのを読ませてもらえたら良かったのに、と思いました。

作者は同時代のアイリス・マードックと比されることもあるようですが、二人の経歴は大きく異なり、作品も、マードックは哲学的テーマを扱い、500頁を超える長編が多く、スパークは風刺的で、中編が多いです。それぞれに違う魅力がありますが、いずれも文章は読みやすいです。加えて、スパークは全体的に短くて気軽に読めるため、ちょっとハマりそうです。

小説は数年後に、別の作家によって演劇の台本となり、映画にもなりました。映画は小説と違う部分も多いです。小説ではブサイクという設定のサンディは、美少女のパメラ・フランクリンが演じています。マギー・スミスのブロディ先生は全身から「イタさ」を発しているのがおかしくて、生徒から‘ridiculous’と評されるのも頷けます。スコットランド訛りとはちょっと違うと思いますが、未だかつて聴いたこともないような、気取ったような、気取りすぎて品がないような、おもしろいアクセントの英語をしゃべっていました。

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