2013年5月13日月曜日

One Good Turn(本)


出典 Wikipedia
【書誌情報】
Kate Atkinson, One Good Turn, Doubleday, 2006

【あらすじ】
Case Historiesに続く、ジャクソン・ブロディ探偵小説第2巻。ジャクソンはエジンバラにて、車をぶつけられたことに憤怒した男がぶつけた男のプジョー(車)の窓ガラスを野球のバットで破壊する事件を目撃した。暴力的な男がプジョー男の頭を目がけてバットを振り下ろそうとした瞬間、ベストセラー作家マーティン・カニングがカバンを投げてバット男を阻止する。お人好しなマーティンは厚かましいテレビスターを無償で居候させていた。一方、ジャクソンは海辺を散歩している時に若い女の死体を発見する。捜査に関わるエジンバラの婦人警官、ルイーズは分譲住宅に住んでいたが、この住宅の販売者は悪徳業者、ハッターで詐欺容疑で捜索を受けていた。ハッターはコールガールと過ごしている時に心臓発作を起こし、ICUに担ぎ込まれる。しかし、夫に愛想をつかしていたハッター夫人は度重なる問い合わせにも応答しない。

【コメント】
ケイト・アトキンソンのNot the End of the Worldと、ジャクソン・ブロディ探偵第一作のCase Historiesはおもしろく読みましたが、本作はこの2冊に比べて少し完成度が劣るような印象を受けました。

本書の主人公は4人いて
  • ジャクソン・ブロディ探偵
  • ベストセラー作家 マーティン・カニング
  • 婦人警官でシングルマザーのルイーズ・モンロー
  • 悪徳不動産屋の夫人、グロリア・ハッター
それぞれの視点から交互に物語が語られます。それ以外に正体不明のプジョー男、 テレビスター、婦人警官の息子、掃除婦の視点からの逸話もはさまれ、さらに周辺人物も多く、時折話が回想になったり、家族やペットへの思いを語ったり、はたまた夫の浮気を確信したりなど、一冊の中にいろいろと詰め込みすぎていて読みにくいです。

William Morris, 'Strawberry Thief' 出典 Wikipedeia
 たくさんの登場人物の中で、ベストセラー作家のキャラクターが魅力的です。彼は50歳で独身ですが、理想の妻について妄想するのが好きです。「休日には妻の手作りのお菓子を食べ、ウィリアム・モリスの『イチゴ泥棒』のソファに座って一緒にクラシック音楽を聴き、食後には息子と飛行機の模型で遊ぶ」という妄想に少女趣味が炸裂していておかしいです。(それに私としてはちょっと他人事とは思えません)

本書のテーマは「ロシア(東欧)」です。おとなしく人の良いベストセラー作家は過去にロシアに行って人に言えない経験をしました。また、悪徳不動産業者ハッターは不動産業以外にロシアから経済的に困窮している女性を連れてきて掃除婦やコールガール、さらに英国人男性の妻として斡旋するという黒い組織を操っていることが明らかになります。この組織は、告発しようとした少女が暗殺され、別の少女は「詐欺的な不動産事業なんて何でもないわよ。あの人もっと悪いことをしているわ」と言うくらい凶悪なことをしていたようです。加えて、すべての登場人物がハッター氏の組織に接点があり、彼が巨悪であることが仄めかされます。にもかかわらず、肝心のハッター氏は最初からICUにいて、組織の詳細は不明のままなので、ストーリーとして消化不良の感があります。ロシアは私も数年前に旅行したことがあります。エルミタージュ美術館に見られるような過去の栄光とは裏腹に、住宅や農村が貧しげなことに驚きました。裏に巨悪が存在しているかどうかについてはさておき、近年は小説のとおり、高い教育を受けている人でも西欧に出稼ぎに行ったりする現実があるようです。

テーマがロシアだけに、マトリョーシカが何度か登場します。ベストセラー作家の家に置いてあったのはプーシキンの物語のイラストが描いてあるマトリョーシカでした。こんな感じの物だっただろうかと思います。マトリョーシカは歴史のあるロシアの民芸品かと思っていましたが、案外伝統が短いようです。

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