2014年9月5日金曜日

一番好きな少女小説



日本でよく読まれている少女小説は、『赤毛のアン』シリーズなのか、『若草物語』なのか、『あしながおじさん』なのか、はたまた、ジェーン・オースティンやブロンテ姉妹なのか(少女小説ではない?)分かりませんが、個人的に一番好きな少女小説はルース・エルウィン・ハリスの「クォントック丘陵四部作」です。他のものよりも頭二つ分くらい抜きん出ている気がします。四人姉妹が主人公なので、「近代の若草物語」などと言われることもあるようですが、本家の方は私はどうにも居心地の悪い部分があって、「クォントック」の方が好みです。

軍人の父親を幼い頃になくし、次いで母親を亡くしたとき、パーセル姉妹の長女フランセスは17歳、四女セーラは7歳でした。姉妹は絵の才能があり、特にフランセスは野心的で、周囲を説得してスレイド美術学校に進学します。しかし、第一次世界大戦が勃発し、次女ジュリアは看護婦としてフランスで勤務し、姉妹の後見人である牧師の息子たちは次々と戦地へ向かいます。三女のグウェンは園芸で姉妹の食卓を支え、セーラは大学進学を目指します。1巻は四女セーラ、2巻は長女フランセス、3巻は次女ジュリア、4巻は三女グウェンの視点から展開します。視点を変え、取り上げる期間を少しずつ長くすることによって、ドラマチックで複雑な、奥行きのある物語になっています。4巻では、第二次世界大戦目前というところまで来ていて、悲劇的ではないものの、さらに暗い時代を予感させるラストです。日本語版の翻訳者による後書きには、「著者は4巻+2巻を構想している」と書かれているのですが、4巻が出版されてから20年以上経っても(販売実績の問題もあるのでしょうが)その後はいっこうに続編が出ません。いつ出版されるかと、ずっと待ち遠しく思っていましたが、作者は、四姉妹とその家族の、第二次世界大戦によるこれ以上の犠牲を書くことをよしとしなかったのだろうか、とも思います。戦争により負傷したり、戦死する主要登場人物もいて、その経緯は1巻の時点で分かるのですが、続く3冊では、その詳細について語られて、巻を追うごとに戦争による悲しみが深まります。四姉妹のキャラクターが非常に魅力的な、品のあるメロドラマであり、読み始めると寝食を忘れるくらいはまり、全巻通読せずにいられません。私は3回くらいは読んだと思います。

大学時代から親しくしてもらっているお友達にも勧めたところ、気に入ってくれて、「夢中になりました。そういえば、子供の頃にはいつもこれくらい本の世界に入り込んでいたと思いました」というお手紙を頂きました。

これまでは日本語訳を読んでいました。脇明子先生の翻訳も、きれいな日本語で読みやすいですが、もともとYA文学なので英語もさほど難しくはないでしょうし、せっかくなら原文で読んでみようと思い、ペーパーバックを揃えました。Kindle版は出ていないので、英米でもそこまで人気はなく、隠れた名作なのかもしれません。

英語で、チキンスープとかマカロニチーズ(日本なら鍋やそうめんなどでしょうか)のような、簡単に作れて、安心できて、ノスタルジーをかきたてるような食べ物をcomfort foodといい、それにならって同様の効果をもたらす本をcomfort bookという場合があるようです。私にとってこのシリーズはcomfort bookだと思いました。私のイギリス(文学)かぶれも、ここからスタートしている気がします。

なお、タイトルは以下のとおりです。
  1.  The Silent Shore or Sarah's Story 『丘の家のセーラ』
  2. The Beckoning Hills or Frances' Story 『フランセスの青春』
  3. The Dividing Sea or Julia's Story 『海を渡るジュリア』
  4. Beyond the Orchid House or Gwen's Story 『グウェンの旅立ち』

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