シャセリオー「姉妹」 |
Kate Atkinson, Not the End of the World, Doubleday,2002
【あらすじ】
「お母さんの誕生日プレゼントに何を買おうかしら?」から始まる、緩やかにつながった12の短篇集。
【コメント】
探偵小説、Case HistoriesのKate Atkinsonによる短篇集です。探偵小説とは雰囲気が異なり、作家名を知らないで読んだら同じ作者の作品とは気付かなかったと思います。
それぞれのお話の始めにオヴィディウス、ホメロス、英米の文学作品の引用があり、ギリシア神話への言及が随所に見られるのがお洒落です。一つ一つは独立したストーリーですが、他の話の登場人物が顔を出し、つながりがあります。
- 双子(ドッペルゲンガー)
- 誕生
- 結婚(式)
- 死、お葬式
- 配偶者をなくす
- ネコ
- 飛行機
- 食べ物
- テレビドラマ
同じモチーフの反復や、日常の繰り返しに倦むこと、誕生→結婚→死が繰り返されることなどはタイトルのNot the End of the Worldにつながるのだろうかと思います。食べ物が良く出てくるのは繰り返しの原動力だからでしょうか。そういえばテレビドラマも同じ曜日の同じ時刻に放映され、少しずつ話が進みます。'Temporal Anomaly'という一篇では主人公が経験する無限ループについても仄めかされています。ただ、Not the end of the world.というのは「たいしたことじゃない」という慣用句のようなものです。
ファンタジーの要素もあり、飛行機や自動車などは、異国だけでなく異世界へ行くことがある乗り物として扱われています。オヴィディウスはラテン語原文が引用されているので私には読めませんが、初めと終わりに配置され、どちらも『変身物語』からの引用です。『変身物語』はすべて人間や神々が動物や植物などに変身する共通のテーマについて語られるもので、全編を読むと「反復による時間の流れ」を感じさせる構成です。「繰り返し」と「転生すること」はなんとなく無関係ではなさそうです。
モチーフが、反復が、などと分析をし始めると少しつまらない感じになってしまいますが、ふわふわしているのに切なかったり、おかしかったりするお話の一つ一つが楽しい一冊でした。
私はシャーロット・ブロンテの『ヴィレット』が好きなのですが、『ジェーン・エア』と比べると影が薄い作品なので、本書で「ウェスト・エンドで上演された破滅的な『ヴィレット』の舞台」と書かれていたのが少しうれしかったです。実在しないと思いますが、どんなものだろうかと興味をそそられました。
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