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2013年7月23日火曜日

Melusine(本)

ドイツの画家、ユリウス・フブナーによるメリュジーヌ。出典
【書誌情報】
Lynne Reid Banks, Melusine, 1988, Puffin Books他

【あらすじ】
フランスの「メリュジーヌ伝説」に取材したヤングアダルト小説。夏休みに両親と双子の姉妹とともにフランスを訪れたロジャーは、古城に宿泊する。塔のある大きな城は荒れていて、今は鬼のようなセルペ氏と、十代の娘、メリュジーヌが山羊を飼って細々と生活していた。ロジャーは年の近いメリュジーヌと仲良くなり、共に山羊の搾乳をしたり、ボートを漕ぎに出かけたりする。しかし古い城には秘密があり、ロジャーは夜中に異形のものの気配を感じる。

【コメント】
A.S.バイアットのブッカー賞受賞作、『抱擁』は非常におもしろい小説で、詩、伝説、過去と現代が絶妙に交錯する読み応えのある一冊でした。『抱擁』ではメリュジーヌ伝説が効果的に使われていて、そこから興味を持ちましたが、この伝説について書かれた本は日本語ではあまり見つけられませんでした。リード・バンクスのMelusineはメリュジーヌゆかりの地に滞在したイギリスの少年の一夏を書いています。

リード・バンクスは『リトルベアー』シリーズとブロンテ姉妹の伝記小説がおもしろかったですが、本作は期待はずれでした。山羊を飼って父親と古城に暮らす少女のメリュジーヌは、おそらく伝説上のメリュジーヌの遠い子孫で、彼女もまた夜中に蛇に変身します。父親のセルペ氏は没落した貴族であり、娘の他に家族もなく近所から孤立し、貧しく不衛生な生活をしていることから少し頭がおかしくなっており、メリュジーヌは父親の性的虐待を受けています。

親による子供の搾取、特に性的虐待などできれば避けて通りたいテーマで、仮に取り扱うのであれば、よほど慎重にしないと、単に不快な虚無感にとらわれるだけなのに、ちょっとこの小説では重いテーマを大雑把に扱いすぎている感があります。「虐待される少女」と「メリュジーヌ伝説」と「中産階級の少年の夏休みの冒険」という三つがうまく絡んでいないようにも思いました。家庭は円満で、裕福な家の主人公のロジャーに比べ、メリュジーヌの置かれている状況は過酷です。にもかかわらず、全体としては恵まれているロジャーがメリュジーヌを見物し、手を差し伸べようとはするものの、結果的にはメリュジーヌに助けられるという構図になっているのも腑に落ちません。

メリュジーヌ伝説は恩を仇で返されたので、翼を生やして飛んで行ってしまう(川に飛び込みゆくえをくらます)という話でした。自力で自分を開放したのに、「こうするのが一番いいんだよ」と言って、本人の意向をきかずに善意からメリュジーヌの先行きを決めようとする大人たちの前から彼女は姿を消します。伝説ではその後メリュジーヌはセイレンになったそうで、本書でもヒロインのその後についての記述がありますが、こういった物語はラストが霧の中に吸い込まれるように曖昧なのが魅力であり、敢えてその後に言及する必要はないのではないかと思います。

2012年11月3日土曜日

Lucy(本)

Paul Gaugin, 'Siesta'


【書誌情報】
Jamaica Kincaid, Lucy, Farrar,Stratus & McIntyre Ltd.,1990

【あらすじ】
カリブ海の島出身のルーシーは19歳になると、北米に渡る。弁護士のルイスとその夫人マライアの4人の子供たちの乳母として住み込みで働く。裕福で美しく、幸せそうな理想の家族にはほころびが生じていた。ルーシーは理解と愛情のある雇用主のマライアと交流を深める一方で、故郷との接触は断とうとする。

【コメント】
シャーロット・ブロンテの『ヴィレット』を翻案した小説だとWikipedia先生が言うので読んでみました。『ヴィレット』から引用しているのはヒロインの名前と、親戚や知人のいない見知らぬ外国に行って働くということくらいで、もとの小説との共通点は少なめです。

『ヴィレット』には主人公の母親の存在がまったく出てきませんが、キンケイドの『ルーシー』では主人公ルーシーの、故郷の母親との関係とアメリカ(カナダかもしれません)で第二の母のような存在となる雇い主のマライアとの関係がテーマの一つです。ルーシーは母親を懐かしく思いつつも、何通も届く手紙を一度も開きません。

「お前は私から逃げられるよ。でも私がお前の母だという事実からは逃げられないよ。私の血はお前に流れているんだよ、私はお前を9ヶ月間身ごもっていたんだよ」
という母親の言葉から、ルーシーは逃げようとしているかのようです。かといって、生まれも育ちも共通点のないマライアとは、親切にしてもらっても心から理解し合うことはできないのでした。

全体を通じて主人公の物事に対する姿勢はクールです。一見幸せそうな雇い主の一家の崩壊も、父親の死も淡々と書き、故郷を理想化することもなく、金銭的に豊かなアメリカに幻惑されることもありません。「理由は説明できないけど」といった表現が特徴的で、そんなところが現代的に思えました。

英語は易しいし、短いのですぐ読めますが『ヴィレット』の内容の濃さには及ばないと思いました。私は20世紀初頭以前に書かれたか、時代設定が20世紀初頭以前の小説が好みですが、その理由は現代に近付くほど物や情報が手に入れやすくなり、人が「あこがれ」の感情を持ちにくくなるからだと思います。人でも、美しいものでも、抽象的な何かでも、文学の中に憧れが混じっていると、その気分を読んでいて追体験できる気がします。反対に物が氾濫してくたびれているような物語を読んでいるとちょっとだるくなります。

なお、表紙絵はルーシーが好んでいるゴーギャンの作品です。

2012年10月20日土曜日

Dark Quartet: The Story of the Brontes(本)

Governess

 【書誌情報】
Lynne Reid Banks, Dark Quartet: The Story of the Brontes, Penguin Books, 1976

【あらすじ】
イギリス、ヨークシャー地方ハワースのブロンテ牧師の子供たち、 マライア、エリザベス、シャーロット、ブランウェル、エミリー、アンは幼い頃から優れた知性を発揮した。ブロンテ師は牧師の娘のための学校に娘たちを入学させるが、マライアとエリザベスはそこで肺炎にかかり、死亡する。姉妹は女子校で学んだ後、家庭教師としてつとめるが、辛い労働環境から挫折する。シャーロットとエミリーはブリュッセルへ留学し、シャーロットはその校長に好意を抱く。ブロンテ姉妹とブランウェルは幼少期から空想の物語を作っていた。姉妹が小説を書き、出版社に送ると何度も拒絶されたが、シャーロットの小説『ジェーン・エア』は出版されるやベストセラーとなる。一方、家族に過大な期待をされたブランウェルは何をしても長続きせず、家庭教師先の夫人と不倫騒動を起こし、アルコールと麻薬に溺れる。

【コメント】
中学生の頃からブロンテ姉妹の小説を愛読しています。地方の牧師館で、世間と接触の少なかった三人姉妹が、世界中で知られる文学を著したという事実も魅力的です。ブロンテ姉妹の存在に興味を抱く作家は多いようで、姉妹を題材とした小説は英語圏ではかなり出版されています。

リン・リード・バンクスの小説は戸棚にミニチュアの人形を入れておくとその人形が生命を得るという『リトルベアー』三部作(児童文学)を読みました。女の子も男の子も、あまり本を読まない子供も楽しめるファンタジーです。その著者で、ブロンテ姉妹を題材としていると聞けば、これは読まざるを得ません。

期待に違わぬ内容でした。マライア、エリザベスとシャーロットが短期間学んだ寄宿学校は『ジェーン・エア』に描写される以上に過酷で、アンの家庭教師先は『アグネス・グレイ』に書かれているとおり、不条理です。シャーロットのブリュッセル滞在は『ヴィレット』を思い出させます。ブロンテ姉妹はお互いに緊密な関係にありましたが、シャーロットは常識人、エミリーは最も文学的才能があるのにヨークシャーの外の世界には馴染まない頑固な変人、アンは敬虔で控えめ、とそれぞれに異なる性格で、姉妹の会話や行動が生き生きとリアルに書かれています。

ブロンテ姉妹は最初男性のペンネームで本を出版しましたが、トラブルに巻き込まれたのを解決すべく、シャーロットとアンがロンドンの編集者のもとへ赴き、編集者が驚くシーンが良いです。

「あなたが?」スミス氏(編集者)は大声で叫んだので、店員は驚き、近くにいた数人が振り向いた。「まさか、いや、そんなはずがない、あなたはカラー・ベル(シャーロットの筆名)ではない…」
(中略)
「あなたの本名は何ですか?あなたは誰ですか?この人は?」
「私はブロンテです、こちらは妹のアン、アクトン・ベルです。私の洗礼名はシャーロットです。私たちはイニシャルをそのままにしたんです。エリス(エミリー)は来ませんでしたが、私たちと同じように実在します」
スミス氏は息をのんだ。「『嵐ヶ丘』の作者も女性?あなた方のような若い女性なんですか?」
ブランウェルは家族から「才能がある」といわれ、はじめ画家を志し、次に駅員として就職し、最後にアンの家庭教師先に勤めます。しかしどこへいってもアルコールや金銭関係でトラブルを起こします。10代までは姉妹と仲がよかったブランウェルですが、次第に緊張が生まれます。彼は姉妹が小説を出版したことすら知らされません。姉妹、特にシャーロットの小説が読者に広く受け入れられた喜びもつかの間、ブランウェルが失望のうちに死ぬと、エミリーとアンも次々と世を去ります。

リード・バンクスはシャーロットのその後の小説も書いています。本書がおもしろかったので、続編もそのうち読んでみたいと思います。


2012年2月29日水曜日

Easy A (映画)



【元ネタ】
『緋文字』 ナサニエル・ホーソーン

【あらすじ】
女子高生、オリーブは「知り合いの大学生と初体験をした」とウソをついたことがきっかけで"bitch"という噂を立てられ、自暴自棄になってビッチを演出するうちにどんどん深みにはまって…

【コメント】
現代アメリカの高校を舞台にしたコメディです。ホーソーンの『緋文字』を元にしていることは映画の中で明言されており、「デミ・ムーアの似非イギリス英語の新しい方の映画ではなくて、古いサイレント映画を見るように」と勧めています。あと、1980年代にラブコメディを何本か撮影したジョン・ヒューズという監督の作品へのオマージュにもなっているらしいですが、私はジョン・ヒューズの作品は見たことがないのでよく分かりませんでした。

ヒロインのオリーブは美人で頭も性格も良いのですが、変な同級生として「純潔クラブ」を結成してヒロインをおとしめる女とか、その彼氏で3回くらい留年して性病にかかる男とか、ゲイの少年などが登場します。主人公の両親もおもしろいです。自業自得でどんどん深みにはまってビッチと後ろ指をさされるというのは結構キツい状況ですが、明るい笑いに満ちています。特に、ゲイの少年と同級生の家のパーティで「ヤッたふり」をするシーンがいいです。そして賢い主人公が自力で挽回し、ハッピーエンドとなるのも痛快です。

『緋文字』はアメリカ東海岸を舞台とした、どちらかというと暗くてイヤな話ですが、本映画はカリフォルニアが舞台で、明るい日の光と乾燥した空気がよく似合うような楽しい映画です。ハスキーヴォイスと碧色の瞳でクールなエマ・ストーンの次回作に期待しています。

それにしても邦題の『小悪魔はなぜモテる?!』というのはちょっとひどいんじゃないでしょうか。あまり内容と合ってもないですし。



2012年2月27日月曜日

Jane Eyre (映画)


 2011年に公開された、最新の『ジェーン・エア』です。IMDB先生によれば、『ジェーン・エア』はこれまでに20回ほども映画や、TVドラマ化されたそうです。私は本作品以外にはジョーン・フォンテインと、シャルロット・ゲンズブールが主演している物、その他いくつかをyoutubeで断片的に観ましたが、この最新の『ジェーン・エア』が一番良いと思いました。ジェーン・エアがヒロインとして画期的なのは、孤児で、美しくなかったにもかかわらず、自分の手で幸福をつかんだことです。そのため、映画のジェーン・エアがあまり美人だったり、お嬢様っぽい雰囲気を出していたり、年を取りすぎていたりしてはダメだと思うのです。

本作品の主演はオーストラリア出身のミア・ワシコウスカです。 絶世の美人ではありませんが、少女小説の主人公らしい雰囲気です。物静かな佇まいで、芯の強さとか情熱を秘めた表情は、小説のジェーン・エアが抜け出したようです。裕福な家庭のお屋敷や、庭、荒野などのイギリスらしい風景も満載です。映画では省略されがちな、セント・ジョン・リヴァースとその妹たちもかなり重要な役割を果たしています。

それと、印象的だったのはロチェスターの狂気の妻、バーサです。登場するのは1、2分ですが、単なる不気味でわけの分からない精神病患者ではなく、寂しげな表情でロチェスターにすり寄る、若く美しい女性です。小説はジェーン・エアの一人称で語られるため、騙されて重婚させられそうになった主人公もしくは狂女に束縛されているロチェスターが犠牲者?であるかのような書きぶりなのですが、本当に気の毒な犠牲者だったのは語る余地を与えられていないバーサだったのだと思いました。ジーン・リースの『サルガッソーの広い海』はバーサから見たジェーン・エアです。こちらも読んでみたいです。





2012年2月16日木曜日

Snow in Summer(本)

Walter Crane
【題材、書誌情報等】
「白雪姫」 グリム童話
Snow in Summer, Written by Jane Yolen, Philomel Books, 2010

【あらすじ】
1930~40年代の、アメリカウェストヴァージニア州が舞台。サマーと呼ばれる、Snow in Summerは、ヴァージニア州のつましい家庭に生まれ、幼くして母を失くした後も親戚のナンシーに保護されて成長します。しかし、父親が魔女に魅入られて再婚すると生活は一変し、ヒロインは継母にこき使われ、支配され、新興宗教の教会に連れていかれ、ついには命の危険まで…

【コメント】
ジェイン・ヨーレンは日本では絵本とSF数冊の翻訳があるようですが、「アメリカのアンデルセン」と呼ばれ、300冊(!)を超える児童書を出版しています。Wikipedia先生によると、ヨーレンはハリー・ポッターシリーズの作者が自作に登場するアイディアのかなりの部分を断りなく使用したと主張しているとのことです。アーサー王伝説の再話や、眠り姫の再話もあります。

Snow in Summerは、主人公のサマーの語りの他に、名付け親と継母による回想が含まれ、さらにサマーが写真を見て「登場人物は昔、こんなふうに見えていた」という描写をする部分があり、物語に厚みがあります。児童文学であり、単純な文章で読みやすく書かれています。継母は腹の底まで真っ黒の邪悪な人物で物語はファンタジーによくある、善と悪の対抗を中心に展開します。

実在の時代と場所に設定されていてしかも現代に近いだけに、魔法の薬とか、真実を喋る鏡などを登場させるのは少し無理がある気がしますが、主人公のサマーは『赤毛のアン』を愛読する普通の少女として書かれています。図書館は一般書の他、YAコーナーと絵本が中心の子供コーナーがあり、本書は子供コーナーに置かれていました。小学校3、4年生の子供が喜んで読みそうです。主人公の父親は精神的に弱く、無責任なのに、何の報いも受けないのはちょっと問題ではないかと思います。

【おすすめ度】
★★★★☆

2012年2月10日金曜日

イサベラとバジルの鉢

John White Alexander
画像はボストン美術館所蔵、ジョン・ホワイト・アレクサンダーという画家による「イサベラとバジルの鉢」です。「イサベラとバジルの鉢」はボッカチオの「デカメロン」の中の一話で、19世紀にキーツがこれをもとに詩を書きました。全文を参照できます。
 「イサベラとバジルの鉢」あらすじ
イサベラは裕福な家庭の娘で、二人の兄から金持ちと結婚するよう、画策されていたものの、使用人であるロレンツォと恋に落ちる。これを快く思わなかった兄たちはロレンツォを殺害する。イサベラは恋人の首を切り取って鉢に植え、バジルの種を蒔く。バジルはよく育ったが、またも兄たちによって鉢を割られてしまう。イサベラは悲しみのあまり、発狂して死ぬ。
アレクサンダーの作品はモノクロ写真のような地味な色遣いです。時代や場所が不明の珍しい衣服で、左手のイサベラの頭のあたりにある布は幕のようにも見えます。光の当たり具合やイサベラの姿勢もドラマチックで、私にはお芝居の一場面のように見えます。 黒っぽい背景に人物が白っぽくかかれていると幽霊などを思わせ、ぞくりとするようなゴシック調の趣きがあります。この話は全体として「身分違いの恋」、「殺人」、「首を切り取る」、「発狂」などなど、ゴシック調です。縦長の画面が印象的ですが、絵葉書を買ったら膝の辺りで絵が切り取られていて残念でした。

イサベラはラファエル前派の画家に好まれた題材でした。
John E. Millais

J.E.ミレーの作品はバジルの鉢は登場しません。こんなふうに色々な身分の人たちが同じ食卓につくことがあったんだろうか、とか、人数の割には小さいテーブルに人々がひしめき合っているとか、ちょっと変なところのある絵だと思います。ミレーの家族や知り合いの集団肖像画のようで、イサベラのモデルは義妹、ロレンツォはダンテ・ガブリエル・ロセッティの弟、一人置いて口元にナプキンを当てているのはミレー自身のお父さん、向かい側でグラスを持っているのは同僚の画家のデヴァレルだったと思います。ロレンツォがイサベラに差し出しているのはブラッドオレンジで、血のように赤い果汁が出るので、後に死んで首を切り取られるということを表しています。クルミの殻を割り、犬を蹴っている人物は、残虐なイサベラのお兄さんです。

William Holman Hunt
ホルマン・ハントのイサベラです。アレクサンダーの作品と同じ場面を描いていますが、色彩や雰囲気が大きく異なります。産褥で亡くなった奥さんをモデルにしたそうです。イサベラは寝間着を着ていて、奥にベッドが見えます。眠れなくて起きたということだそうです。植木鉢の髑髏のモチーフと、ジョウロは同じテーマを描いたウォーターハウスの作品にも承継されました。

J.W.Waterhouse

J.M.Strudwick
J.M.ストラドウィックのイサベラは、バジルの鉢がさらわれた場面です。窓の外に二人のお兄さんが鉢を持って駆けていくのが見えます。ちょっとこの距離なら急いで追いかければ追いつけそうです。イサベラの珍しい、少し乱れたドレスや、体をひねったやや不自然なポーズはラファエル前派の影響が色濃いとも言えるし、狂気の萌芽であるようにも思えます。
Henrietta Rae


W.J.Neatby
ニートビーの作品のイサベラは、恋愛とか狂気とはあまり関係がなく、園芸を楽しむ上流婦人のようにも見えます。





2012年2月8日水曜日

Sirena(本)

J.W.Waterhouse 'Mermaid'
【題材、書誌情報等】
ギリシア神話
Donna Jo Napoli 著、Scholastic Inc 刊、1998年

【あらすじ】
美しい歌声を持つ姉妹たちと海に暮らしていた人魚のシレナは、人間の男性に愛されることがあれば永遠の命を授かる運命でした。トロイア戦争に向かう途中に女神ヘラの呪いで蛇に噛まれて重傷を折った人間のフィロクテテスの傷を介抱し、無人島で夫婦のように暮らし、永遠の命を得ますが、自分だけが不滅になっても意味がないと気付きます。

【コメント】
ドナ・ジョー・ナポリらしい、軽くさらっと読める小説です。ただ、主人公が人ならざる者で、ファンタジーとしてもかなり無理があります。全篇の半分以上はシレナとフィロクテテスだけであれやこれやして、恋愛の話に終始しているので少し平板です。人と人魚の違い以上に男女の違いについて考えさせられる部分はあります。

【おすすめ度】
★★★☆☆





2012年1月19日木曜日

Beauty(本)

【題材、書誌情報等】
「美女と野獣」フランス民話
Robin McKinley著、 Harper Collins社刊、1978年

【あらすじ】
Beautyは裕福な商人の三人姉妹の末娘です。その綽名にもかかわらず、姉二人は美人ですが、Beautyは美しくありません。父親の船が遭難し、一家は突然貧乏になります。父親が旅に出た帰路で道に迷い、魔法にかかった城で末娘へのお土産としてバラの花を折りとったため、城の主である野獣に娘の一人を差し出せと要請されます。そこで末娘は城に赴き、野獣と暮らすことになりました。

【コメント】
 原作と異なる点は
  • ヒロインは美しくない
  • お姉さん2人とも仲良し。最後に石になったりしない。
  • お姉さんたちの結婚についての記述もある。
等、いくつかありますがほとんど元の話の枠組みから逸脱しておらず、単に細部の描写を詳しくして話を冗長にしただけという感があります。暇つぶしにはなっても、目が覚めるほどおもしろいというわけではありません。同じ題材の再話だとドナ・ジョー・ナポリの『野獣の薔薇園』の方が複雑で、野獣の屈折した思いが書かれていて良かったです。

それにしても、おとぎ話には女の視点で語られる、女に都合の良い話が多い(目立つ)気がします。語り伝えてきたのが女性が多かったのだとすれば、当然の結果かもしれません。

【野獣はどんな姿だったのか?】
ところで、この物語に登場する野獣はどんな姿だったのでしょうか。

コクトー映画ではライオンのような特殊メイク

エドマンド・デュラックは人間に近い姿で描き

ウォルター・クレインの描く野獣はイノシシのよう


ウォリック・ゴーブル描く野獣はロバに似ています

 一番気味が悪いのはアン・アンダーソンの描く野獣です。他のイラストレーターの野獣は毛が生えた哺乳類が多く、怖いとか変な感じはありますが、ぬいぐるみのようでもあり、一緒に食卓につくことも許容できそうです。一方、アンダーソンの野獣は気持ち悪くて、目の前にこんな怪物が座っていたら何も喉を通らなさそうです。こんな巨大化した爬虫類のような野獣を見てしまったら、王子様に変身した後でも、愛せるかどうかは微妙なのではないでしょうか…
ちょっとこっちに近寄らないでよ
【おすすめ度】
★★★☆☆



『去年マリエンバートで』(映画)

影は地面に描いたそうです
【題材】
フランスの伝承

【あらすじ】
ロココ風の装飾を施された城のようなホテルに宿泊する人々の中で、謎めいた美女Aは男Xに誘惑される。「去年フェリクスバードでお会いしましたね」しかし、AはXに会ったことはない、と言う。

【コメント】
四つの異なる視点のストーリーを一つにつなぎ合わせたとのことですが(Wikipedia)、やっぱり訳が分かりません。それで、本を購入し、海外版DVDに収録されている当時製作に携わった人々のインタビューなども見てみたのですが、結局「この映画はどういうことなのか」に対する明確な答えは見つけられませんでした。分かったことは「ヒロインを演じるデルフィーヌ・セイリグの髪型は、当初もっと別な感じになる予定だったが、彼女が勝手に散髪をしてしまったので、あの髪型に変更したものである。ただ、結構人気が出た」ということくらいです。

それはさておき、確か本の解説に、「死神が若い女性を連れていこうとする。彼女は『1年待ってくれ』と言ったので、死神は1年後に再びやってきて、連れていく」というフランスの伝承が下敷きとなっている、というようなことが書いてありました。とすると、この映画のストーリーは
妻であるAが避暑地マリエンバード(かどうかは分からない)で、(X氏と?)浮気をしようとしていることに気付いたAさんの夫M氏は、妻の浮気現場に突入してAさんを殺そうとする。ただ、Aさんは完全に死ななかったのか、この世に未練を残していたのか、意識の上ではAさんはまだ生きていて、1年間、それまでどおり生きているかのように意識が彷徨していた。そして1年後に死神X氏と再会した時には、既に自分は半分死んでいるということを忘れているが、X氏は曖昧な理由でぜひとも自分と駆落ちしようと言って、Aさんを黄泉の世界に連れていく。
 
という解釈ができるかもしれないと思いました。

まあ、全然違うかもしれません。直接的に死が語られることはないのですが、ホテルの宿泊客は動きが少なく、無表情で時折カメラが止まったりもするため、全員既に死んでいるようでもあります。終わりが見えないようなパイプオルガンの音楽や、重苦しい建物など、随所から死のにおいが感じられます。よく分からないストーリーではありますが、映像は悪夢のようでもあり、美しくもあります。とりあえずこの雰囲気に浸かれれば良いのではないかと思いました。

【おすすめ度】
★★★★★

2012年1月10日火曜日

Brothers Grimm and the Sisters Weird

ウォリック・ゴーブル「かえるの王様」
【題材、書誌情報等】
グリム童話
Vivian Vande Velde, Jane Yolen Books Harcourt Brace & Company,1995

【あらすじ】
「ルンペルシュティルツキン」、「かえるの王様」、「赤ずきん」、「ヘンゼルとグレーテル」等々、グリム童話その他のおとぎ話のアダプテーション13篇。

【コメント】
「ルンペルシュティルツヘン」や「赤ずきん」の再話もある、ヴィヴィアン・ヴァンデ・ヴェルデによるおとぎ話です。『六つのルンペルシュティルツキン』のStraw into Goldも収められています。ヤングアダルトではなく、小学生を読者として想定しているようで、英語はやさしく、かなり読みやすいです。痛快で軽い語り口です。ただ、大人が読むには少々物足りないか?ちょっと深みに欠ける気がします。

【おすすめ度】
★★☆☆☆





2012年1月3日火曜日

『ソフィー』(本)


【題材、書誌情報】
「青ひげ」 ペロー童話
ガイ・バート著、新潮社刊、2009年

【あらすじ】
ロウソクの灯りに照らされた部屋で、マシューは椅子に縛り付けた姉のソフィーに、自分たちの幼少時代について語るように迫る。なぜソフィーは縛られているのだろうか?並外れた知性を持った姉に見守られたマシューの幼少時代とその終焉とは?20年前の夏に一体何が起こったのだろうか? ソフィーとマシューの語りによりそれらのことが徐々にあかされる。

【コメント】
ミステリーです。過去と現在が、ソフィーとマシュー(マティー)により交互に語られます。両親に半ば見捨てられているものの、美しく賢い姉と過ごす日々は閉ざされた楽園のようでもあります。ヒイラギの木のうろに作った隠れ家、悪夢にうなされたときに作ってもらったオレンジエード、化石探し、姉が暗号で記す日記等々の魅力的なエピソードが登場します。全体が甘く悲しい雰囲気に包まれており、しかも続きが気になって本を置くことができないストーリーの面白さもあります。
ただ、私の読解力の不足のためか一度読んだだけでは分からない点が多々あります。「マシューの悪夢は何だったのか?」、「なぜ母親も死んでしまったのか?」とか。謎が謎のまま残るのもいいのかもしれません。
なお、「青ひげ」のアダプテーションのようなシーンは最後の方で少し登場します。動画は作品中でソフィーが歌う「ボロを着たジプシーたち」(Raggle Taggle Gypsies)です。一度聴いたら忘れられない、物悲しいメロディです。失われた美しい子供時代という本作品のテーマに合っていて、小説を読みながらBGMにこの音楽をかけると、ソフィーとマティーの姿がくっきりと印象付けられるように思います。

【おすすめ度】
★★★★★

2011年12月25日日曜日

『ロバと王女』(映画)

父親に求婚される王女
【題材等】
「千匹皮」グリム童話

監督 ジャック・ドゥミ
出演 カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン・マレー他

【あらすじ】
ある国の王妃が死に際に国王に「再婚するなら私と同じように美しい人としてください」と遺言をのこす。王は美人を探すが、王妃と同じような美人は自分の娘である王女しか見つからないため、王女に求婚する。王女は困って名付け親の妖精に助けを求める。妖精は不可能な願い事をすれば王があきらめるだろうと考え、「空を映したような、月の光のような、太陽のような3枚のドレスと宝石を生むロバの皮を要求するように」とアドバイスする。しかし、王は娘のその望みをかなえてしまったため、王女はロバの皮をかぶって城から抜け出し、隣国の宮殿に下働きとして仕える。

【コメント】
白いライオンのようなネコのような形の玉座、風船のような棺、造花を飾りつけた室内装飾、ヘリコプターでの登場など、破天荒なセンスと、極彩色の色遣いが面白いです。ミュージカルですが、歌はあまり良くないです。滑稽すぎて見ていて気恥ずかしいです。

父親にドレスなどをもらって、喜んだ王女が「こんなに良くしてくれるのだから結婚した方がいいかも」と言う場面は
それだけはないわ
としか思えませんでした。原作では妖精は登場せず、王女自身が全力で父親との結婚を回避しようとします。ところが、Wikipediaで調べると、近親相姦エンディングもあるのですね。それはショックです…。

なんとなくニセモノ臭く、子どもっぽい感じもします。カトリーヌ・ドヌーヴはきれいです。

【お勧め度】
★☆☆☆☆

2011年12月24日土曜日

Cloaked in Red(本)

J.E.Millais 'Little Red Riding Hood'
【題材、書誌情報】
「赤ずきん」 グリム童話
Vivian Vande Velde作、Marshall Cavendish刊、2010年

【あらすじ】
母親の言いつけでおばあさんにお土産を持って行こうとした赤ずきんちゃんは、途中の森でオオカミに出会う。赤ずきんちゃんから行き先を聞き出したオオカミは先回りしておばあさんを食べ、さらに赤ずきんちゃんをも食べる。

…というグリム童話やペロー童話の赤ずきんの話は有名ですが、「なぜオオカミは森で出会ってすぐに赤ずきんを食べないのか」、「赤ずきんが自分のおばあさんとオオカミを見分けることができないのは不自然だ」、「終わり近くできこりが登場しておばあさんと赤ずきんを救出するが、唐突すぎるし、すぐに殺さないでオオカミのお腹に石を詰め込んで縫い合わせたのは何のためだったのか」等の疑問を持った作者が赤ずきんを元ネタに、8通りのバリエーションを語ります。
  1. 「赤いマント」森でオオカミに出会った赤ずきんはきこりに助けを求めますが、きこりは助けてくれません。
  2. 「赤ずきん人形」母親に抑圧されているお針子ジョルジョットは子供が欲しいと願い、赤ずきんを着けた等身大の少女の人形を作成します。人形は命を得ますが、森の中で男たちといちゃつき、ジョルジョットを落胆させます。
  3. 「赤ずきんの家族」赤ずきんの家庭の様子。両親とおばあさんとの関係。おばあさんと赤ずきんの正体。吸血鬼もオオカミは怖いらしい。
  4. 「おばあさんとオオカミ」罠にかかったオオカミを助けたおばあさん。孫娘が訪ねてきたためオオカミを隠し、さらにおばあさんにとって迷惑な求婚者のきこりが訪ねてきたので孫を隠し、そこへ息子が訪ねてきたのできこりを隠します。ドタバタ
  5. 「薪拾いのヂームズ」親切な薪拾いのヂームズは森でヘンゼルとグレーテル、子ブタのレンガの家を訪ねるオオカミ、おばあさんの家でベッドに寝ているオオカミ等に遭遇し、自分にできるだけの手助けをしようとします。しかし、善意は人を救いません。
  6. 「ウィリーとその弟はなぜ何事も成し遂げられなかったのか」おばあさんと孫がオオカミのぬいぐるみで遊んでいたところ、本当のオオカミが出たと勘違いして騒動を起こしたのはグリム兄弟でした。
  7. 「小さな赤い頭痛」オオカミ視線の赤ずきん。人間にオオカミ語が通じないためディスコミュニケーションが起こります。オオカミも大変だ。
  8. 「赤ずきんの赤ずきん」愚かな女の子と賢いずきんの物語。
【コメント】
以前の投稿で紹介した『六つのルンペルシュティルツキン物語』の姉妹編です。ヴァンデ・ヴェルデ先生のユーモアと皮肉にあふれる「赤ずきん」です。現代的で、痛快。内容は軽く、読みやすいです。子供の英語学習に使いたい感じです。ルンペルシュティルツキンよりもさらに砕けた雰囲気で、赤ずきんの話を自在に操っている印象です。個人的な好みとしてはルンペルシュティルツキンの方が好きです。
なお、上の絵はジョン・エヴァレット・ミレーの作品です。おそらくモデルはミレー自身の娘と思われます。

ミレーのお嬢さん、エフィーちゃんのサイン入りブロマイド(ルイス・キャロル先生撮影)
【お勧め度】
★★★☆☆

2011年12月22日木曜日

Spinners

どうしたん?
【題材等】
「ルンペルシュティルツヘン」 グリム童話
Donna Jo Napoli作、Puffin Books刊、1999年

【あらすじ(ネタバレあり)】
恋人の父親に「金で作ったウェディングドレスを用意すれば娘と結婚させてやる」と言われた仕立屋は老婆から紡ぎ車を強奪し、藁を金に紡ぐことに成功するものの、事故により結局恋人と結婚することができなかった上、片脚が委縮してしまいます。恋人は粉屋と結婚し、娘を産んだ後、産褥で死亡します。長じて、娘は紡ぎの名人となりますが、粉屋が「娘は藁を金に紡ぐことができる」と王様に言ったので、娘は「金を紡ぐか、さもなくば死刑」と言われます。仕立屋は手助けしますが…

【コメント】
本作品では、ルンペルシュティルツキンがヒロインの実の父親、粉屋は育ての父親という設定になっています。ルンペルシュティルツキンが子供を欲しがるのは「食べるため」と思っていたのですが、彼は別に手当たり次第子供を誘拐したりして食べまくっていたわけではありませんでした。本作品はルンペル氏が「その子供」を欲しかった理由を説明しています。他人の子供を奪おうという邪悪な人間は自ら滅びるのですが、彼が子供を心待ちにしてこんな物を食べさせてやりたい、と考えたりおもちゃを作ったりする箇所は泣かせどころです。また
  • 娘の恋人に金の衣装の作成を要請する
  • 自分の軽はずみな発言により娘を試練にあわせた挙句に「もっと金を紡げ。父親の命令をきけないのか」と要請する
  • 自分の立場を明かさずに、「名前を当てられなかったらお前の産んだ赤ちゃんを連れていく」と言う
という、変な父親三人が登場します。こんな父親はイヤだ。ヒロインの旦那さんも変な人であり、ちょっとバッドエンドです。

【お勧め度】
★★★☆☆



【おまけ】
純金のドレス。画像はこちらから拝借しました。

2011年12月21日水曜日

Lady Jane

リーゼント
【題材】
イギリス史

【あらすじ】
ヘンリー8世の後を継いで国王となった病弱なエドワード6世は、10代で夭逝します。彼にはメアリーとエリザベスという異母姉妹がいたものの、政治の実権を握るジョン・ダドリー等の陰謀により、ヘンリー8世の姪であるジェーン・グレイが即位します。本作品はジェーンが周囲の意向によりジョン・ダドリーの息子、ギルフォードと結婚し、理想に燃えてイギリスを統治しようとするもメアリー1世により処刑されるまでを描きます。

【感想】
日本での知名度は低いですが、格調高く、素晴らしい映画です。ジェーンとギルフォードは政略結婚ですが、それが純愛に変わり、運命に翻弄されて二人とも殺されてしまうのが切ないです。今となってはイギリス映画の大御所の感があるヘレナ・ボナム・カーターがまだ初々しく、相手役のケアリー・エルウェスも王子様らしい風貌です。風景や音楽もきれいで、約2時間半という長さを感じさせない、濃い内容です。史実と異なる点もあるとは思いますがそのことは気にしても仕方ないかと。

【評価】
★★★★★

『六つのルンペルシュティルツキン物語』

【題材】
「ルンペルシュティルツヘン」グリム童話

【あらすじ】
父親が「私の娘は藁を金に紡ぐことができます」と言ったがために、王様に、三晩藁を金に紡ぐように命じられた娘の物語。その不可能な仕事をしてくれるという小人が現れ、娘を救う。しかし、金を紡ぐ仕事の代償として三晩めに小人が娘に求めたのは「初めに生まれた子供を自分にくれ」というものだった。ただ、一定期間内に自分の名前を当てることができたら勘弁してやると小人は言う。「ルンペルシュティルツヘン」という名前を当てることができたので小人は悔しがって自らの身を真っ二つに引き裂いた。

…というグリム童話の話ですが、「父親がマヌケすぎる」、「『わらを金に紡がないなら死刑』」と言う強欲で残虐な王様と結婚してヒロインは幸せになれるのか」、「ルンペルシュティルツヘン気の毒すぎ」と考えた作者が、これを題材に6通りのバリエーションを語ります。

話の骨格は変えずに、ルンペルシュティルツキンが女だったり、エルフだったり、父親だったり、そして娘の方も賢かったり、美しかったりするかと思えば傲慢で愚かな娘もあります。

【感想】
一つの話を6通りに語るという構成が面白いです。ひねりと皮肉がきいていて、どの話も元の話の問題点を解消していて小気味が良く、説得力があります。私は「藁を金に」がロマンチックで好きです。

【評価】
★★★★☆

Breath(Donna Jo Napoli)

【題材】
ハメルンの笛吹き

【あらすじ】
のう胞性繊維症を抱える少年、ザルツの見た、13世紀ドイツのハメルンの町。ネズミが大発生し、穀物は麦角病に侵され、これを食べた人々は次々と四肢の収縮、妄想、死産、死亡に至ります。笛吹きによってネズミは駆除されるのですが、ハメルン市長が代金を支払わなかったため、子供たちが連れ去られます。病気の描写がグロテスクであり、他にも妄想に駆られての暴力、家族殺し、魔女集会など、ネガティブな事件ばかりが次々と起こります。しかもラストは地獄絵図のようです。

【感想】
題材として面白いですがあまりにも暗く、読んでいて気分の良いものではありません。残虐なのが好きな人にはいいかもしれません。ただ、娯楽のための読書なのでもっと楽しい話を読む方が好きです。

【評価】
★★☆☆☆

2011年12月8日木曜日

11月に読んだ本

洋書を読むとき、分からない単語があっても前後から意味を推測して読む速度を速くすることを心がけて、その度に辞書を引くことはしないようにしています。ただ、1ページに10以上も知らない単語が出てくると辞書を引かないと全体の意味がとれなくなってしまうため、辞書を使わざるを得ません。読もうとして途中で頓挫したA.S.ByattのThe Virgin in the Gardenは単語が難しくて構文も複雑で、なかなか読み進められませんでした。
そこで、英文にもっと慣れるまではもう少しやさしいものを多読しようと思いました。ドナ・ジョー・ナポリは、日本でもグリム童話のアダプテーションなどが翻訳されていて、人気のある作家です。アメリカの図書館にはどこでも10冊以上蔵書があり、常時半分くらいは借り出されています。一文が短くて語彙も易しく、しかも読み始めると引き込まれる面白さで、私のような英語学習初心者にはうってつけかと思いました。
  1. Hush
    紀元900年ころ、アイルランドの小国の王女であるメルコルカの物語です。もともとは、「アイスランドの首領、ホスクルドがロシアの奴隷商人から買った奴隷の愛人は、言葉を発さなかったが、息子が生まれて話しかけているのを聞いて初めて彼女がメルコルカという王女であることを知った」という、「サガ」の逸話から題材を取っているそうで、サガにはそれだけしか情報がないところ、ナポリはメルコルカが奴隷商人に誘拐されてから買われてアイスランドに連れられて行くまでの旅を描いています。過酷な状況で黙秘の誓いを立て、賢く思いやり深い女性に成長していくメルコルカが魅力的です。人間が売買されて人間らしからぬ扱いを受けるということはショッキングであり、最初は傲慢な王女で、奴隷を使う立場であったメルコルカが逆の立場に落ちるのは色々と考えさせらるものがあります。

  2. Song of the Magdalene
    マグダラのマリアがキリストに出会うまでの物語です。西アジアの乾燥した気候やユダヤ教の慣習などを背景に、ミリアム(マリアのヘブライ語読み)幼馴染で肢体不自由者のアブラハムとの恋や、社会から排斥されるさまが書かれ、キリストは女性を含め、弱者にとって救いだったのだろうと思いました。ミリアムの人生には次々と辛いことが起こりますが、一つ一つがドラマチックで、また切なくもあり、読み始めると止まらなくなります。

  3. The Smile
    レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」のモデルと言われているリザ・ジョコンダの小説です。舞台はメディチ家が権力を持ち、サヴォナローラが民衆を扇動した16世紀のフィレンツェです。題材としては面白く、色々に時代や場所を変えてその時々の様子を魅力的に描写するナポリはすごいな、とは思うのですが、主人公のエリザベッタが少しつまらない人で作品を損なっているのが残念です。「モナリザ」を題材に取った小説としてはカニグズバーグの『ジョコンダ夫人の肖像』の方がお勧めです。