The Girl Who Fell From the Sky/Trapeze (本)

Violette Szabo, 1921-1945
【書誌情報】
Simon Mawer, The Girl Who Fell From the Sky(UK) /Trapeze(USA),2012

【あらすじ】
マリアン・スートロはイギリス人の父、フランス人の母の娘としてスイスで成長し第二次世界大戦下、ロンドンにてSpecial Operations Executive特殊部隊に採用された。スパイとして武器の扱い方やモールス信号などの訓練を受けた後、パラシュートを使いフランスに渡る。「アリス」と名乗り、フレデリック・ジョリオの研究所で放射能研究に従事する幼なじみの研究者をイギリスに連れ戻す任務につく。マリアンは訓練の成果と従来の聡明さにより、無事に任務を果たせるかに見えたが…

【コメント】
昨年出版されたサイモン・モウアーの最新作です。イギリスではThe Girl Who Fell From the Skyというタイトルで出版されましたが、アメリカには既に同タイトルの本があったそうでTrapezeという題名です。内容は同じのようです。

ヒロイン、マリアンのお父さんは元国際連盟の職員で、マリアンは修道院付属の学校で教育を受けました。お兄さんは物理学の研究者でした。裕福なインテリ家庭出身のマリアンは戦争中でも困窮することはなかったようですが、スパイとして採用された時からドラマチックに生活が変化します。

サイモン・モウアーの小説は三冊読み、登場人物の精緻な心理描写が印象的でしたが本書では趣きが異なり、アクションに重点が置かれています。占領下の異国でスパイ活動を行い、無線機器の道具を体内に入れて運ぶなどやっていることは重くてハードとはいえ、読後感はGlass Roomのように圧倒的に迫るものがなく、呆気にとられます。スパイ活動は常に多大な緊張を強いられることが全篇から伝わり、あまり考えると怖くて行動できなくなりそうです。それで心理描写が少ないのだろうかと思いました。

マリアンは行動力があり、使命に向かって突き進む断固とした性格です。一緒に訓練を受けるイヴェットという女性はヒロインとはあらゆる面で対照的で、良家の出身でもなく、弱く、悲観的です。二人はスパイとしては別の活動に従事しますが、途中から引き寄せられるように再会しマリアンの運命はイヴェットに操られ、(おそらく)両者とも似たような最後に向かいます。生まれや性格に関係なく、結局は時代の犠牲者となってしまった彼女たちの姿は悲劇的です。

第二次世界大戦中、イギリスの特殊部隊の女性スパイは55人いたそうです。調べてみるとViolette Szabo(イングリッド・バーグマンに似た美人)という女性が、一部本書のヒロインのモデルとなっているのだろうか、と思いました。ヴァイオレット・サボーはイギリス人の父、フランス人の母を持ち、フランス語能力を買われて採用されました。マリアンのようにスパイの訓練を受けた後、パラシュートでフランスに降り立ちました。ドイツ軍に占領されたフランスでレジスタンス活動の支援をし、逮捕されそうになると銃撃戦となりました。最終的には捕えられ、拷問にかけられ、ラヴェンズブリュックの強制収容所で処刑されました。マリアンの最期については本には言及がありませんが、55人のスパイの内、13人はスパイ活動中、もしくは強制収容所で亡くなったそうです。ご冥福をお祈りします。

コメント