イサベラとバジルの鉢

John White Alexander
画像はボストン美術館所蔵、ジョン・ホワイト・アレクサンダーという画家による「イサベラとバジルの鉢」です。「イサベラとバジルの鉢」はボッカチオの「デカメロン」の中の一話で、19世紀にキーツがこれをもとに詩を書きました。全文を参照できます。
 「イサベラとバジルの鉢」あらすじ
イサベラは裕福な家庭の娘で、二人の兄から金持ちと結婚するよう、画策されていたものの、使用人であるロレンツォと恋に落ちる。これを快く思わなかった兄たちはロレンツォを殺害する。イサベラは恋人の首を切り取って鉢に植え、バジルの種を蒔く。バジルはよく育ったが、またも兄たちによって鉢を割られてしまう。イサベラは悲しみのあまり、発狂して死ぬ。
アレクサンダーの作品はモノクロ写真のような地味な色遣いです。時代や場所が不明の珍しい衣服で、左手のイサベラの頭のあたりにある布は幕のようにも見えます。光の当たり具合やイサベラの姿勢もドラマチックで、私にはお芝居の一場面のように見えます。 黒っぽい背景に人物が白っぽくかかれていると幽霊などを思わせ、ぞくりとするようなゴシック調の趣きがあります。この話は全体として「身分違いの恋」、「殺人」、「首を切り取る」、「発狂」などなど、ゴシック調です。縦長の画面が印象的ですが、絵葉書を買ったら膝の辺りで絵が切り取られていて残念でした。

イサベラはラファエル前派の画家に好まれた題材でした。
John E. Millais

J.E.ミレーの作品はバジルの鉢は登場しません。こんなふうに色々な身分の人たちが同じ食卓につくことがあったんだろうか、とか、人数の割には小さいテーブルに人々がひしめき合っているとか、ちょっと変なところのある絵だと思います。ミレーの家族や知り合いの集団肖像画のようで、イサベラのモデルは義妹、ロレンツォはダンテ・ガブリエル・ロセッティの弟、一人置いて口元にナプキンを当てているのはミレー自身のお父さん、向かい側でグラスを持っているのは同僚の画家のデヴァレルだったと思います。ロレンツォがイサベラに差し出しているのはブラッドオレンジで、血のように赤い果汁が出るので、後に死んで首を切り取られるということを表しています。クルミの殻を割り、犬を蹴っている人物は、残虐なイサベラのお兄さんです。

William Holman Hunt
ホルマン・ハントのイサベラです。アレクサンダーの作品と同じ場面を描いていますが、色彩や雰囲気が大きく異なります。産褥で亡くなった奥さんをモデルにしたそうです。イサベラは寝間着を着ていて、奥にベッドが見えます。眠れなくて起きたということだそうです。植木鉢の髑髏のモチーフと、ジョウロは同じテーマを描いたウォーターハウスの作品にも承継されました。

J.W.Waterhouse

J.M.Strudwick
J.M.ストラドウィックのイサベラは、バジルの鉢がさらわれた場面です。窓の外に二人のお兄さんが鉢を持って駆けていくのが見えます。ちょっとこの距離なら急いで追いかければ追いつけそうです。イサベラの珍しい、少し乱れたドレスや、体をひねったやや不自然なポーズはラファエル前派の影響が色濃いとも言えるし、狂気の萌芽であるようにも思えます。
Henrietta Rae


W.J.Neatby
ニートビーの作品のイサベラは、恋愛とか狂気とはあまり関係がなく、園芸を楽しむ上流婦人のようにも見えます。





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