J.W.Waterhouse, 'Sweet Rose' |
Wars are fought by children. Conceived by their mad demonic elders and fought by boys. I say that now, caught out in surprise at how young people are, forgetting that it is not they who are young but I who am old.【書誌情報】
Penelope Lively, Moon Tiger,Andre Deutsch,1987
【あらすじ】
歴史小説を書いて人気となったベストセラー作家のクローディア・ハンプトンは世界の歴史の本を書こうと決意する。死の床にあるクローディアは、ライバルであり、非常に近しくもあった兄のこと、ロシア貴族の末裔である恋人ジャスパーのこと、ジャスパーとの間に生まれた娘のリーザのことなどを回想する。クローディアは赤毛の美人で、気が強く奔放に生きた。第二次世界大戦中は特派員としてエジプトに渡り、戦車の司令官、トムと恋愛関係に陥る。トムとの関係は短かったが、クローディアにとってトムは忘れ難い存在だった。
1987年のブッカー賞受賞作。
【コメント ネタバレあり】
本書は日本語訳も出版されているので、原書で読むことをためらっていましたが古本市で買ってしまったので、読みました。ペネロピ・ライヴリーは1933年生まれ、幼少期をエジプトで過ごし、若いころ考古学関係の仕事をしていたことがあるそうです。本書には作者のその経験も反映されており、興味深いです。
ヒロインのクローディアは美しく、聡明で「私のことは自分で決める」という自立した女性です。シングルマザーとなることを選び、男性と対等に議論し、社会的地位も得る、という生き方は現在ではそこまで珍しくないものと思いますが、20世紀前半生まれの女性としては異彩を放っていたのでしょう。「ムーンタイガー」って何だろう、と思いましたが、主人公がエジプトで使っていた蚊取り線香の商品名です(「タイガーバーム」のような??)。
ペンギン版の表紙は蚊取り線香の焚き方がちょっと変 |
- 死の間際にある女性作家が自分の人生を回想する
- 主人公の回想と、omnipotent narratorからの記述が入り混じる
- 主人公の辛辣で奔放な性格
- きょうだい(本書では兄、The Blind Assassinでは妹)との緊密な関係
- 家庭教師にラテン語を教わる
- 娘をもうけるが、自分で育て(ることができ)ない。娘との疎遠な関係
- 若い男性との恋愛。彼に「お話して」とせがむ。
- 「語ること」への問いかけ
物語の視点が飛び、時間軸も過去→現在へとまっすぐに進まないので少し分かりにくいです。クローディアの性格にもそこまで魅力が感じられず、彼女の生涯がやや漫然と語られる印象で、「果たして結論はどこへ?」と思ったのですが、最後まで到達すると「歴史とは、物語とは」という問いに対する回答が示されています。
And I can only explain this need by extravagance:my history and the world's. Because unless I am a part of everything I am nothing.この部分を読んで、ジョン・ダンの有名な'Devotion Upon Emergent Occasions'の有名な一節を思い出しました。
No man is an island entire of itself; every man is a piece of the continent, a part of the main; if a clod be washed away by the sea, Europe is the less, as well as if a promontory were, as well as any manner of thy friends or of thine own were; any man's death diminishes me, because I am involved in mankind. And therefore never send to know for whom the bell tolls; it tolls for thee.