A Handful of Dust (本)

イーヴリン・ウォー先生

『一握の塵』映画より 写真右、ジェームズ・ウィルビー氏
【あらすじ】
田舎に地所を持つ、若き地主のトニー・ラストは夫人のブレンダがロンドンに出て経済の勉強をする名目で浮気をしていることに気付かない。夫妻の息子が落馬して死亡し、ブレンダが離婚を申し出たためトニーは妻がスキャンダルに巻き込まれぬよう、自分の浮気が原因で離婚したと見せかけようとする。しかしブレンダとその親族が高額の慰謝料の支払いを要請してきたため、離婚はしないこととし、ブラジルに探検に出るが…

【コメント(ネタバレあり)】
日本ではイマイチ知名度が低いですが、風刺小説の作家として名高いイーヴリン・ウォーの小説です。真面目に書いているようでクスッと笑える箇所が多く、たとえばこんなエピソードがあります。
  • 長く従軍牧師としてつとめ、戦争とは関係のない教区に赴任してもお説教を書き直さないで毎週「辛い状況でも故郷を思って…」的な説教をする牧師
  • 主人公はロンドンに出た妻に会いに行くが面会に失敗し、結局ロンドンから妻の下宿先に電話をかけただけ。そのことを息子に揶揄される。「お父さん、電話ならここからでもかけられるのに」
  • 浮気をしているように偽装するため、バーの女を雇って海岸のホテルに連れていくものの、結局その女と娘に翻弄されっぱなしでうまく偽装できない。
  • ブラジルに探検に出かけ、病気にかかって変な男に助けられるものの、その男の要請は「この先ずっと俺のためにディケンズを朗読しろ」
主要登場人物はなんとなく中途半端で平凡な性格の人ばかりで、その中途半端さを最大限に発揮してどんどん妙な状況に巻き込まれていくのがおかしいです。妻に浮気をされ、その妻も浮気相手もお金に動かされているような俗っぽい人で、南米に出かけた挙句にディケンズを一生読まされるはめになるなど主人公にとってはおかしいどころではないのですが。

本作品は1988年にクリスティン・スコット・トーマス、ジェームズ・ウィルビー等が主演で映画化されました。若いときのイーヴリン・ウォー先生がジェームズ・ウィルビーにそっくりなので驚きました。

ところで、私が英語のクラスの教室で読んでいたら先生に「随分洗練された本を読んでるね!」と言われました。「難しいです」と言ったら「もちろん難しいよ。『回想のブライズヘッド』は読んだ?」と言うので「日本語訳を読みました」と言ったら「『ブライズヘッド』の英語はすごく難しいから、英語で読んでいたらすごいよ」と言われました。『英語青年』(たしか)にも『ブライズヘッド』を英語が難しい小説の代表のように書いていた記事があったことを思い出しました。『一握の塵』もところどころ見慣れない熟語や、単語、複雑な構文が出てきますが、概ね読みやすいです。文章に独特のリズムがあって軽妙です。『回想のブライズヘッド』も大変おもしろい小説です。

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