2013年1月28日月曜日

Path to the Silent Country (本)




【書誌情報】
Lynne Reid Banks, Path to the Silent Country; Charolotte Bronte's Years of Fame, Penguin Books, 1977

【あらすじ】
弟妹のブランウェル、エミリー、アンを相次いで失ったシャーロット・ブロンテは失意に沈むが、新しい小説、『シャーリー』と『ヴィレット』を書く。出版社からの誘いでロンドンに度々旅行し、万国博覧会を見学したり、サッカレーやハリエット・マーティノー、エリザベス・ギャスケルとの親交を結ぶ。父親のパトリックは年老いて偏屈になり、娘を束縛するが、シャーロットは果敢に立ち向かい、幸せな結婚をする。Dark Quartet: Story of the Brontesの続編。

【コメント】
リン・リード・バンクスのブロンテ姉妹小説の第二作です。エミリーとアンは前作の終わりで病死してしまったため、シャーロット・ブロンテの後半生の物語です。

『ジェーン・エア』の成功により名声と富を手にしたシャーロットはロンドンに出て著名人と交流し、華やかな世界を体験します。弟妹を失った彼女にとってそうした生活は慰めとなりましたが、父親は「私は5人の子供の4人までを失った、これ以上こんな目にはあいたくない」と言ってシャーロットの行動を阻止しようとします。それまで従順な娘だったシャーロットですが、ギャスケル夫人に「お父様に絶対服従する必要はありませんよ」と言われ、立ち向かいます。その姿は使用人という立場にもかかわらず、主人のロチェスターに率直に話すジェーン・エアを彷彿とさせます。

ギャスケル夫人は後に『シャーロット・ブロンテ伝』を書きました。夫人の温厚な人柄は本書からも伺い知ることができます。当時の世相を反映した『ルース』を書くに当たっては、牧師夫人としての社会からの要請と、個人的な思想との間で葛藤があったようです。『ルース』はスキャンダルを以って迎えられますが、シャーロット・ブロンテはギャスケル夫人に触発されて社会問題に興味を持つようになり、女性囚人を訪問したこともありました。

シャーロットはブリュッセルに留学した際、師であったエジェ氏に片思いし、彼を忘れることはありませんでした。しかし後半生には編集者のジョージ・スミスに思いを寄せ、彼は『ヴィレット』のブレトン医師のモデルになりました。また、スミス氏の同僚、テイラー氏からも求愛されます。ロンドンにいるテイラー氏と文通し「手紙だと魅力的な人柄なのに、会うとどうしてもダメ」と言って結婚には至りませんでした。そして文学にはあまり興味がないけれど、親切なニコルズ氏と父親の反対を押し切って結婚します。恋愛に関する心情の機微もおもしろいです。

 画像はシャーロット・ブロンテの写真と、作中にも言及のあるジョージ・リッチモンドによる肖像画です。シャーロット・ブロンテは(『オフィーリア』の)J.E.ミレーからも肖像画を描くというオファーを受けましたが「リッチモンド先生との先約があるので」と断ります。角度が違うからなのかもしれませんが、写真と肖像画が似ていないなと思いました。小説の中で、肖像画についてギャスケル夫人は「普通の美人になってしまっているわね」と言い、シャーロット自身は「父と女中が老けた感じに描かれていると言っています」と語ります。

日本語訳はありませんが、ブロンテ姉妹は日本でも人気があるので、リン・リード・バンクスの二部作は翻訳されるといいな、と思います。

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