How It All Began(本)

【書誌情報】
Penelope Lively, How It All Began,Penguin Books,2012

【あらすじ】
風が吹けば桶屋が儲かる。英語教師を引退した初老の女性、シャーロットはロンドンでケチな泥棒に財布を盗られて骨折し、身体がきかなくなったために、娘のローズとその夫のゲリーの家に身を寄せる。ボランティアで英語を教えていたシャーロットは、教室まで行く代わりに東欧からの移民、アントンを家で個人教授する。シャーロットの怪我が引き金となり、ローズ、アントン、ローズが秘書として仕える歴史学者ヘンリー卿、インテリアデザイナーのマリオン、その恋人のジェレミーの人生がそれぞれに変化する。

【コメント】
ペネロピ・ライヴリーの小説はいつも現代に生きる女性に寄り添う書き方をしています。本書の主要登場人物である3人の女性は1.引退した英語教師のシャーロット、2.シャーロットの娘で裕福な学者ヘンリー卿の秘書を勤めるローズ、3.ヘンリー卿の姪でインテリア・デザイナーのマリオンです。3人とも自分の望む仕事をし人々からの信頼を得て、7~9割くらいは自分の人生に満足しているようであり、同時に将来への不安もあり、家族、恋人との間にちょっとした問題も抱えています。3人それぞれが少し自分と似た部分がある気がするし、いろいろな知人に似ているようにも思います。

マリオンはアンティーク商で妻子あるジェレミーと不倫の恋をし、ジェレミーは妻から離婚を言い渡されます。ほぼ同年代らしいローズは結婚して20年以上、穏やかな夫婦関係を築いてきましたが、東欧からの移民、アントンにひかれ、買い物を手伝うとか、ロンドンを案内するという名目で何度かデートします。でも、連れ立って出掛けるだけで、一線を越えることはなく、恋愛感情を抑制するところに好感を持ちます。私は本能や感情に忠実に生きるとか、本音の表現をあまり意味あることだとは思いません。「自分に正直に」行動した場合の一つの結果がマリオンとジェレミーであり、一時的にではあるものの自分も家族も泥沼に陥ります。恋愛小説じたい、それほど読みませんが遠慮と我慢を通した本書のローズとアントンのストーリーはまれに見る、あらまほしき恋愛だと思いました。

ブッカー賞を受賞したMoon Tigerではヒロインである作家が「なぜ語るのか」という命題を探求していました。本書はMoon Tigerと対になる作品のように思えます。本書における問いは、「なぜ人は物語を読むのか」というものです。おもしろいのは、語ることに対する問いと読むことに対する問いの答えは同じで、結論としては'No Man is an island...'(誰がために鐘は鳴る)なのです。このフレーズは本書の最初と最後のページにも引用されています。

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