Love, Fiercely(本)


【書誌情報】
 Jean Zimmerman, Love, Fiercely: A Gilded Age Romance, 2012

【あらすじ】
サージェントの「フェルプス・ストークス夫妻の肖像」のモデルとなった、ニューヨーク出身の大富豪の夫妻の生涯。

【コメント】
「フェルプス・ストークス夫妻の肖像」のアイザック・ニュートンとイーディスの夫妻は、サージェントの肖像画の中でも際立ってモダンでおしゃれな服装です。サージェントの描いた肖像画の貴婦人はサテンやレースのドレスに、アクセサリーも宝石をふんだんに使ったものを身に着けていることが多いですが、イーディスの服装はパリッとした生地に、装飾も少なく、自転車に乗るような格好です。本書によると当初、サージェントは夜会服などもっと華やかな服装のイーディスを描こうとしていました。


別の画家による肖像画です。イーディスは、婦人参政権運動に関与したり、幼稚園の拡大に尽力したりしたそうです。サージェントの描く彼女の肖像はそういった進歩的な性格をあらわしているように思いました。

旦那さんのニュートン・フェルプス・ストークスは貿易事業などで財をなした大富豪の家に生まれました。ニュートンの両親はレノックスに100も部屋のあるお城のような大邸宅を構えていました。イーディスも良家の出身でした。幼なじみの二人はお互い28歳の時結婚し、新婚旅行で1年以上もパリに滞在して、サージェントによる肖像画はその時描かれました。

ニュートンは趣味人で、ニューヨークの古い地図や版画を多数集収し、本として出版しました。建築に関心が高く、ニューヨークの集合住宅の改善などにも携わったようです。夫妻には子供がありませんでしたが、女の子を養子にしました。その子が良い環境で成長できるように、との願いからイーディスは「アメリカ幼稚園協会」の会長を努めました。イーディスは晩年には体調を崩し、ニュートンは献身的に介護をしました。

題材としてはおもしろいとは思いますが、夫妻は大変にお金持ちで、働く必要がなかったので、本書の内容は「お金がたくさんあった。それは今日の貨幣価値では○円くらいである。それでお金をこんなふうに使った」という話に終始していて、平板に感じました。肖像画の製作についても通り一遍の記述ばかりです。大部分はニュートン・フェルプス・ストークスの回想記をもとにしているようですが、二人の性格が今ひとつよく見えないのも残念に思いました。


なお、前衛芸術家、アンディ・ウォーホルのミューズであったイーディ・セジウィックはイーディス・ストークスの大姪にあたり、名前は大叔母に由来するそうです。

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