The Girl in Blue(本)

Gainsborough, 'Lady in Blue'
【書誌情報】
P.G. Wodehouse, The Girl in Blue, Arrow Books, 1970

【あらすじ】
  1. ニューヨークの弁護士、ホーマー・パイルは姉のバーナデットがデパートで万引きをしたとの連絡を受け、醜聞を避けるためバーナデットをイギリスの知り合いの弁護士、ウィロビー・スクロープの兄が営む田舎の高級下宿に滞在させることにする。
  2. 弁護士、ウィロビー・スクロープは競売でゲインズボロの描いた先祖のミニチュア肖像画「青いドレスの少女」を手に入れ大喜びしている。彼は成功した弁護士だが、田舎にあるメリンガム屋敷を管理する兄のクリスピンは維持費の支出が多いため経済状態が悪い。屋敷の執事、チッペンデールの正体は執事ではなく、クリスピンはチッペンデールに逆らえない。
  3. スクロープ兄弟の甥、ジェリー・ウェストは漫画家である。婚約中だが、陪審員として出頭した法廷で見かけた少女に一目惚れし…
  4.  大切な「青いドレスの少女」が盗まれた!犯人はバーナデットに違いない。
  5. 登場人物がメリンガム屋敷に集合して、「青いドレスの少女」を取り戻すべく奔走する。

【コメント】
P.G.ウッドハウスはイギリスのユーモア小説作家です。私は『20世紀イギリス短篇選』でその存在を知りました。「ジーヴス」などのシリーズは人気があります。ユーモア小説だというので読みやすいだろうと期待したのですが、英辞郎にも載っていないようなイディオムが多数出てきて、書かれた当時の独特の言い回しらしき表現もあり、読むのに苦労しました。

ただ、細かい言い回しや表現は完全には理解できなくても、スピードのある展開でおもしろく読めます。登場人物は一癖ある人ばかりで、特に主人公のジェリーの伯父、スクロープ兄弟のキャラクターがいいです。「おじ、おば」というのは小説に登場すると、重要な役回りで個性的な人物であるケースが多い気がします。

イギリス小説ですからゲラゲラと大笑いさせるということはなく、部屋の隅で一人にやりとしたくなるようなユーモア描写が随所に見られます。以下は、ミニチュアがなくなったので、興奮しているスクロープ弁護士とその兄の会話です。
「どこもかしこも探したのかい?」
この質問は前の質問と同様、彼(ウィロビー)を怒らせたようだった。
「私が眼鏡を置き忘れたようなことを言わないでくださいよ!」
「眼鏡を置き忘れたと言ったのかい?」
「いや、眼鏡を置き忘れたとは言っていませんよ」
「私はいつも眼鏡を置き忘れるよ」
「あなたの眼鏡は呪われればいいんです!」
「そうだね、ビル(ウィロビーのこと)」
田舎に広大な屋敷を所有し、莫大な維持費に苦労するとか、本人は大真面目なイギリス紳士なのにちょっと滑稽だとか、子供や執事など弱い立場の人におおいに振り回されるなど、Evelyn WaughのA Handful of Dustに通じるところがあります。ただしこちらはハッピーエンドです。とはいえ、作者の「結婚はハッピーエンディングではない」というメッセージも読み取れて興味深いです。

 

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