Dark Quartet: The Story of the Brontes(本)

Governess

 【書誌情報】
Lynne Reid Banks, Dark Quartet: The Story of the Brontes, Penguin Books, 1976

【あらすじ】
イギリス、ヨークシャー地方ハワースのブロンテ牧師の子供たち、 マライア、エリザベス、シャーロット、ブランウェル、エミリー、アンは幼い頃から優れた知性を発揮した。ブロンテ師は牧師の娘のための学校に娘たちを入学させるが、マライアとエリザベスはそこで肺炎にかかり、死亡する。姉妹は女子校で学んだ後、家庭教師としてつとめるが、辛い労働環境から挫折する。シャーロットとエミリーはブリュッセルへ留学し、シャーロットはその校長に好意を抱く。ブロンテ姉妹とブランウェルは幼少期から空想の物語を作っていた。姉妹が小説を書き、出版社に送ると何度も拒絶されたが、シャーロットの小説『ジェーン・エア』は出版されるやベストセラーとなる。一方、家族に過大な期待をされたブランウェルは何をしても長続きせず、家庭教師先の夫人と不倫騒動を起こし、アルコールと麻薬に溺れる。

【コメント】
中学生の頃からブロンテ姉妹の小説を愛読しています。地方の牧師館で、世間と接触の少なかった三人姉妹が、世界中で知られる文学を著したという事実も魅力的です。ブロンテ姉妹の存在に興味を抱く作家は多いようで、姉妹を題材とした小説は英語圏ではかなり出版されています。

リン・リード・バンクスの小説は戸棚にミニチュアの人形を入れておくとその人形が生命を得るという『リトルベアー』三部作(児童文学)を読みました。女の子も男の子も、あまり本を読まない子供も楽しめるファンタジーです。その著者で、ブロンテ姉妹を題材としていると聞けば、これは読まざるを得ません。

期待に違わぬ内容でした。マライア、エリザベスとシャーロットが短期間学んだ寄宿学校は『ジェーン・エア』に描写される以上に過酷で、アンの家庭教師先は『アグネス・グレイ』に書かれているとおり、不条理です。シャーロットのブリュッセル滞在は『ヴィレット』を思い出させます。ブロンテ姉妹はお互いに緊密な関係にありましたが、シャーロットは常識人、エミリーは最も文学的才能があるのにヨークシャーの外の世界には馴染まない頑固な変人、アンは敬虔で控えめ、とそれぞれに異なる性格で、姉妹の会話や行動が生き生きとリアルに書かれています。

ブロンテ姉妹は最初男性のペンネームで本を出版しましたが、トラブルに巻き込まれたのを解決すべく、シャーロットとアンがロンドンの編集者のもとへ赴き、編集者が驚くシーンが良いです。

「あなたが?」スミス氏(編集者)は大声で叫んだので、店員は驚き、近くにいた数人が振り向いた。「まさか、いや、そんなはずがない、あなたはカラー・ベル(シャーロットの筆名)ではない…」
(中略)
「あなたの本名は何ですか?あなたは誰ですか?この人は?」
「私はブロンテです、こちらは妹のアン、アクトン・ベルです。私の洗礼名はシャーロットです。私たちはイニシャルをそのままにしたんです。エリス(エミリー)は来ませんでしたが、私たちと同じように実在します」
スミス氏は息をのんだ。「『嵐ヶ丘』の作者も女性?あなた方のような若い女性なんですか?」
ブランウェルは家族から「才能がある」といわれ、はじめ画家を志し、次に駅員として就職し、最後にアンの家庭教師先に勤めます。しかしどこへいってもアルコールや金銭関係でトラブルを起こします。10代までは姉妹と仲がよかったブランウェルですが、次第に緊張が生まれます。彼は姉妹が小説を出版したことすら知らされません。姉妹、特にシャーロットの小説が読者に広く受け入れられた喜びもつかの間、ブランウェルが失望のうちに死ぬと、エミリーとアンも次々と世を去ります。

リード・バンクスはシャーロットのその後の小説も書いています。本書がおもしろかったので、続編もそのうち読んでみたいと思います。


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