ラファエル前派の画家とモデル 14.エマ・マドックス・ブラウン


Emma Madox Brown
フォード・マドックス・ブラウンはラファエル前派(以下「PRB」)のメンバーではないものの、モデルも含む、PRB関係者、特にロセッティと親しかった。エマは、労働者階級の出身で、妻を亡くしたマドックス・ブラウンの内縁の妻として長期間過ごした後、結婚した。

【モデルとなった主な作品】

マドクス・ブラウン「イギリスの見納め」バーミンガム美術館、1855年

マドックス・ブラウン「かわいい仔羊」バーミンガム美術館、1859年

「あなたの息子です、旦那様」テイト美術館、1856年
上の三つの作品はエマがモデルとなりました。マドックス・ブラウンはPRBを語る上で無視できない画家です。特に、「英国の見納め」は彼の代表作とされています。男性のモデルはマドックス・ブラウン本人です。船に乗って、オーストラリアへ移住する場面を描いています。奥さんの帽子のリボンや、柵に吊るされたキャベツの描写がリアルです。

マドックス・ブラウンの作品を見ると、PRBの他の画家ほど作品の完成度が高くないのでは?と思ってしまいます。人物の顔色が不自然で美しくないし、表情や姿勢もなんとなく変です(たとえば、新生児をこんなふうにむんずと掴んで差し出すのはそうとうに不自然ではないでしょうか)。PRBの画家はいずれ唯美主義的な性格を持っていますが、マドックス・ブラウンは唯美主義立場はとらず、風刺を重視していて、作品にはグロテスクさすら感じられるからかもしれません。

ロセッティ「エマ・マドックス・ブラウン」
 このスケッチは、ロセッティからマドックス・ブラウン夫妻への結婚祝いでした。エマは労働者階級出身で、教育がありませんでしたが、可憐な美少女でした。アルコールを飲みすぎるという欠点があり、マドックス・ブラウンとは概ね仲が良かったものの、口論が絶えませんでした。しかし、親切でバランスの取れた性格で、神経質で気難しいエリザベス・シダルの良き友人でした。

【その他】
  • エマの継娘(マドックス・ブラウンと先妻との子)のルーシー・マドックス・ブラウンと、娘のキャサリンも画家です。さほど有名ではありません。
  •  孫のフォード・マドックス・フォードはマドックス・ブラウンの伝記を著しました。非常にたくさんの著作があるのみならず、The English Reviewを創刊し、ハーディ、H.G.ウェルズ、ヘンリー・ジェイムズ、ジョセフ・コンラッドらの小説を出版しました。


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