ラファエル前派の画家とモデル 1.クリスティーナ・ロセッテイ


Christina Rossetti(1830-1894)
ロンドンにて、イタリアから亡命してきた詩人のガブリエル・ロセッティと妻のフランセスの末子として生まれる。長兄は画家、詩人のダンテ・ガブリエル・ロセッティ、次兄ウィリアム・マイケルと姉のフランセスはともに文筆家。クリスティーナは文字を学ぶ前に、母親にお話を口述した。家庭で教育を受け、詩を愛読した。とくにダンテ、ペトラルカなどイタリアの詩人から強く影響を受けた。10台の後半には、ラファエル前派のメンバーの一人と婚約していたが、結婚には至らず、生涯独身を通した。
クリスティーナの初期の詩作品は、ロマン派の伝統に則った、死や喪失に関するものが多い。31歳の時、Goblin Market and Other Poemsを発表して広く賞賛され、エリザベス・バレット・ブラウニングの後継者とも言われた。詩にはフェミニズム的への傾倒も見られる。

【モデルをつとめた主な作品】

D.G.ロセッティ「聖母マリアの少女時代」テイト美術館、1848年ころ
刺繍をしているマリアのモデルがクリスティーナ、その隣に座るアンナは母フランセスがモデル。クリスティーナの髪の色は、画面の色彩効果のために、実際の色から変更されています。多くの小道具が象徴的に扱われています。たとえば、床に落ちているシュロの葉と茨はキリストの受難を、百合の花はマリアの純潔を、本は「希望、忠実、慈悲」の美徳を、鳩は精霊をあらわします。この作品はロセッティの油彩画第一作で、PRB(Pre Raphaelite Brotherhood=ラファエル前派)と署名されたはじめての作品です。出典

D.G.ロセッティ「見よ、我は主の婢なり」テイト美術館、1850年ころ
マリアのモデルがクリスティーナ、ガブリエルのモデルはウィリアム・マイケル。ロセッティはボッティチェリなど初期ルネサンスの画家より影響を受け、本作で受胎告知の前衛的解釈を試みました。伝統的な受胎告知の図におけるマリアは、読書し、沈思している姿で描かれることが多いのですが、ここではガブリエルに寝ているところを起こされたかのように、ベッドに座っている姿で描かれています。また、ガブリエルに翼がない上に裸に近い服装であること、鳩に光輪が描かれていることなども、伝統から外れるもので、批評家からは賛否両論を受けました。白が中心の画面は聖母の処女性を表しています。「聖母マリアの少女時代」で刺繍をしていた細長く赤い布が、右手に見えます。赤はキリストの血を象徴し、百合はもともと聖母マリアの花であると同時に、葬儀の花でもあり、キリストの死を象徴しています。マリアとガブリエルの光輪の大きさなどが異なるのは、別の時期に描かれたためです。出典1出典2

【その他】
Sing-Song: a Nursery Rhyme Book より

クリスティーナの童謡集、Sing-Song: a Nursery Rhyme Bookはラファエル前派とも近い関係にあった、アーサー・ヒューズが挿絵を描いています。

フェルナン・クノップフ「私は自分自身に対して扉を閉ざす」ノイエ・ピナコテーク、1891年
ベルギー象徴派の画家である、フェルナン・クノップフの「私は自分自身に対して扉を閉ざす」はクリスティーナの詩、Who Shall Deliver Me?の一節から着想を得ています。クノップフは、ラファエル前派の画家たちや、イギリスのG.F.ウォッツらと親交がありました。

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