2013年4月13日土曜日

The Fall(本)

オイガー、北面 Wikipedia先生より拝借
【書誌情報】
Simon Mawer, The Fall, Little, Brown and Co.,2003

【あらすじ】
ロンドンで絵画商を営むロバート・デューアーは幼馴染で若いころに一緒に登山をし、後に登山家となったジェイミーが登山中に墜落して死亡したことをラジオで知った。ロバートはジェイミーの夫人、ルースを弔問し、ジェイミーとの出会いから、共にアルプスのオイガーを登ったものの、雪崩にあったことを回想する。ジェイミーの父、ガイ・マシューソンも登山家だったが、ヒマラヤ山脈で遭難した。ガイ・マシューソンは第二次世界大戦中に自分の母親と交際していたらしいこと、母親に隠された過去があることをロバートは知る。

【コメント】
サイモン・モウアーはイギリスの作家で、2009年にはThe Glass Roomでブッカー賞候補となりました。本書は登山をテーマとしており、作者自身も登山を趣味としていたものの、主人公のロバートのように雪崩で事故にあったことをきっかけにやめたそうです。

20世紀後半に中年に至ったロバートの視点からの、幼馴染のジェイミーとの登山にまつわる回想と、第二次世界大戦中に登山家、ガイ・マシューソンと出会うロバートの母、ダイアナの物語が交互に語られます。登山、三角関係、苦難、手術などは親子に共通する経験で、息子の人生は母親の人生をなぞっているようでもあります。ただ、内容としては、山→セックス→痴情のもつれ→遭難→山→セックス→山→遭難…という感じなので途中少し飽きてきます。登山と男女交際以外にするべきことはないのでしょうか。

登山の素晴らしさについての記述は意外と少なく、登山とは90パーセント以上が辛い、苦しい、危険なものだという印象を受けます。父親の軌跡をたどるとか、親友が登るから、はたまた現実からの逃避のため、という動機付けも一応はあるのですが、死と隣り合わせの危険に常に出かけなければならないほど説得力のある動機とは思えません。登山家たちが登山をしない人間には理解できない理由で頑として山に登り続けるのが不思議に思えます。彼らが山に登る理由は最後20頁ほどでようやく説明され、同時に登場人物の出自が明かされます。私はハイキング程度の登山しかしませんが、本書を読んでも「山に登ってみたい」と思うどころか「高尾山以上の山には登るまい」と思いました。眺めているだけで充分です。

The Glass Roomのような緻密さや緊張感がないのが少し残念ではありましたが、サイモン・モウアーは戦時の生活の描写がうまくて、ダイアナが第二次世界大戦下のロンドンで看護婦として苦労するシーンが本書の秀逸な部分だと思います。それと、大したことではありませんが英米文学に日本人が登場する場合、個人的な性格を付与されない団体旅行者であることが多いなぁと思いました。

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