Family Album(本)

暖炉にの周りにド・モーガンのタイルが貼られた家だったそうです

【書誌情報】
Penelope Lively, Family Album, Penguin Books,2009

【あらすじ】
エドワード朝様式の大きな家に住む、作家のチャールズと、その妻のアリスンには6人の子供たちがあった。アリスンは専業主婦を天職とするような人で、「理想の家庭」を築くために家族のイベントを重視し、料理に腕をふるった。一家とともに常に子守のイングリッドがいた。子供たちは問題児ポール、早熟なジーナ、美人でファッションセンスのあるサンドラ、心配性のケイティ、秀才ロジャー、運動神経抜群のクレアとそれぞれに特徴的で、成長すると故郷のイギリスを離れて別々な道を歩むが、折々に生家に帰省し、幼少期を回想する。

ペネロピ・ライヴリーは現代イギリスを代表する作家の一人。児童書を含む50冊以上の著作がある。Moon Tigerでブッカー賞を受賞している。

【コメント】
大家族、特に大勢の兄弟姉妹の登場する小説は設定からして魅力的です。本書は1970~2000年代初頭のイギリスの一家の物語です。大家族のメンバーが回想する、一つ一つは短い異なる時期のできごとは家族のスナップ写真集を見るようでもあります。30年以上に渡る一家のアルバムを眺めると、その人たちのことを少し知ったような気もするけれど、実際には写真からは分からないことの方が多く、写真が他人に与える印象と写っている当人達の記憶が乖離しているように、語り手と読み手との間にもギャップがあるし、語られないことの方が多いものだと思いました。

子供を6人も育て、大きな家を管理し、おいしい家庭料理でもてなし、いつも朗らかな一家の主婦であるアリスンは一見模範的な主婦のようですが、自分の「家/家庭」の理想にこだわりすぎて他人の思惑には無神経です。夫を蔑ろにするほど我が子に全身全霊を費やしているにもかかわらず、実のところ子供たちが何をして遊んでいるかについてすら把握していません。いつもポーカーフェイスの子守のイングリッドが、善意のエゴイストになりがちなアリスンに時折ツッコミを入れるのがおかしいです。

子沢山で、書斎にこもることの多い著述業の旦那さんがいて、大勢で食卓を囲む場面があるなど、私にはヴァージニア・ウルフの『灯台へ』を思わせる部分がありましたが、『灯台へ』の中心的人物である優雅で求心的なラムゼイ夫人に似たところは本書のアリスンにはありません。むしろ彼女はラムゼイ夫人の裏返しのようなキャラクターで、ご馳走とか、家族の記念日のイベントなど、物質的な要素で人を集め、しゃべる内容に重みがなく長男に「お母さんのおしゃべりは壁紙のようなものだ」と言われます。実質は「モノ」で人を集めているだけだったアラースミードが経済的基盤を失った途端に一家の手を離れざるを得ないのは当然だったのでしょう。

なお、本書のカバー袖には「絵葉書のような光沢の底には疎遠な父親や、説明できない感情の爆発、ずっと隠されてきた誰も話そうとしない秘密の陰りがあった」と書かれていますが、並外れてエキセントリックな人物や、恐るべき秘密が隠されているわけではなく、むしろ全体としては穏やかな印象です。真面目なイギリス小説で、さりげなくハーディが引用されていたりします。一家の人々の性格に個性があるところも興味深いです。


コメント