英国唯美主義展




 三菱一号館美術館で開催されていた「英国唯美主義展」に行きました。同館は、かつて銀行だった赤煉瓦の建物を美術館としてリニューアルしたそうで、建物、内装に風格があります。きれいな建物で美術品を鑑賞するのはとりわけ贅沢なことだと思います。 森美術館のラファエル前派展よりも多彩な展示物があり、絵画だけでなく設計図、家具、アクセサリーなどもあります。

唯美主義(耽美主義)とは、Wikipediaによると
...19世紀後半、フランス・イギリスを中心に起こり、生活を芸術化して官能の享楽を求めた。1860年頃に始まり、作品の価値はそれに込められた思想やメッセージではなく、形態と色彩の美にある、とする立場である。 
とのことです。 作家では、オスカー・ワイルドらが、画家ではホイッスラー、ロセッティ、オーブリー・ビアズリーらがいます。東方からの影響を受け、装飾として孔雀の羽や花、イチョウの葉などを多用し、白地の陶器に青で絵付けしたものが好まれた、といった特徴があります。

フレデリック・レイトン卿「桜桃」
フレデリック・レイトン卿の作品は、リアリティのかけらもなく、とりわけ目新しくもなく、ともすれば通俗的とも言えるためか、現在ではペーパーバックの表紙に良く使われるものの、評価は不当に低い気がします。そういった諸々のことも、絵を目の前にすると「そうはいっても美しいからいいのでは」と思います。ひたすら甘く、美しいだけですが、これだけ徹底して美しければそれはそれでありだと思います。美に耽溺するのが唯美主義なので、難しいこと抜きで、きれいだと思えれば、それでねらいは果たしているのでしょう。

シメオン・ソロモン「花嫁、花婿と悲しい愛」

シメオン・ソロモン「ビアトリス」

バーン・ジョーンズ「天地創造の日々」
シメオン・ソロモンはロセッティやバーン・ジョーンズとも交流のあった後期ラファエル前派の画家です。同性愛者だったため、逮捕されて画家としてのキャリアを中断され、救貧院で亡くなりました。「花嫁、花婿と悲しい愛」は彼の同性愛的傾向が現れている一枚だと思います。天使の表情は当時反社会的とされていた同性愛者の悲哀を反映しているかのようで、裸体表現のきわどさよりも、全体に漂う悲しい雰囲気が印象的です。シメオン・ソロモンの画風はバーン・ジョーンズに通じます。しかし、バーン・ジョーンズの人物は時に両性具有的で、それは男性像が女性的であることからそう思うのですが、シメオン・ソロモンの女性像は男性的な特徴を備えて両性具有的であることが多いです。王立美術院で学び、18歳で個展を開くなど、若くして華やかなスタートを切ったものの、晩年は不遇だったシメオン・ソロモンは、オクスフォード大学を中退し、正規の美術教育を受けずに独学で絵画を学んで画家として成功し、爵位を得たバーン・ジョーンズの裏返しのような生涯です。なお、シメオン・ソロモンの「ビアトリス」とバーン・ジョーンズの「天地創造の日々」は展覧会には出展されていません。

エレン・テリーと駆け落ちした建築家のエドワード・ゴドウィンによる設計図や、ヴィクトリア朝の芸術のパトロンだったアイオニディーズ一族の貴婦人の肖像画などがあり、ラファエル前派にも連なるいろいろな名前が見られて、興味深く展示を見ました。

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