A Severed Head(本)

オーデュボンの鳥
 【書誌情報】
Iris Murdoch, A Severed Head, Penguin Books, 1961

【あらすじ】
ワイン商のマーティンは美しい妻と若く魅力的な愛人を持ち、「自分は世界を手に入れたようなものだ」と考えるほど人生に満足しきっていたが、妻のアントニアに「精神分析医のパーマーと結婚することにしたので、離婚してほしい」と言われる。妻の離婚宣言は晴天の霹靂だったが、マーティンは紳士らしく穏やかに対応しようと決める。アントニアの依頼でパーマーの妹を駅まで向かえにいくことになったマーティンは、魔女のようなオナー・クラインと出会う。オナーは神出鬼没で、行く先々に現れてはマーティンを翻弄する。

【コメント】
アイリス・マードックの小説はできるだけ読んでコメントを書こうと思って読んだのですが、本書はがっかりするものでした。ひたすらワインとウィスキーと痴情のもつれが主題で、男3、女3の主要登場人物が、最終的にはほとんど全部の相手と関係を持ちます。マードックの作品の特徴は、物語が7割以上進んだ時点で、すべての伏線を回収しつつ、圧倒的な力ではっとさせられるような結末へ導くところにあると思うのですが、本書に関しては9割以上進んでもいっこうに着地点が見えません。最初から最後まで「AはXと関係を持った。次にYと関係を持った。それから自分の本当に求めるものはZの愛であると気付き、最終的にZの元へ行った」というつまらない話に終始しています。後期の作品に見られる、物語のスケールの大きさや、知的で刺激的な部分もあまりなくて、マードックはこんな凡庸な小説も書くのか!とさえ思いました。

印象的だったのは、奇妙なつかの間の交流しかなかったものの、主人公であるマーティンが強くひかれていたオナー・クラインとの別れの描写です。こういった、人間の心理の微妙さを繊細に書くところがマードックの良さかなと思います。
In that instant a communication passed between us, and even as it did so I reflected that it was perhaps the final one. I did not imagine it; she gave me a very slight shake of the head and a curtain came down over her eyes.It was a decisive and authoritative farewell: (...)It was our first and last moment of intimacy, vivid, but concentrated to a solitary point. 
タイトルの「切られた首」は学者であるオナー・クラインがマーティンに対して、「あなたにとって、私は未開民族にとっての切られた首のようなものだ」という、よく分からないような分かったようなことを言うのに由来しています。また、主人公の愛人が自殺未遂をするシーンが本書のハイライトになっていて、その直前に愛人は自分の長く厚い褐色の髪の毛を切って、細長い箱に入れて主人公に送ります(怖)。小包に入っていたのは髪の毛だけでしたが、切られた頭を送ってきたという連想も可能であると思います。

ただ単に「読みました」という事実を作るだけの読書になってしまった気がします。著者がマードックでなければ、途中で読むのをやめていました。私の読解力のなさが悪いのですが、こういう読書に果たして意味があるのか、分かりません。なお、トップ絵の「オーデュボンの鳥」の版画は主人公と奥さんが家にずっと飾っていたもので、離婚に際しての財産分配で、二人の一番の関心の対象でした。最終的には複数枚あったものを二分割しましたが、自分のお気に入りを持っていかれてしまった、とわだかまりを残します。本書の結末もまさにそのように、あまりすっきりしないものです。

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