2013年5月2日木曜日

Consequences(本)


Robert Gibbings

【書誌情報】
Penelope Lively, Consequences,Viking Penguin,2007

【あらすじ ネタバレあり
1930年代のイギリス。お嬢様育ちのローナは公園で出会った画家、マット・ファラデーと家族の反対を押し切って結婚し、田舎の小屋に暮らす。夫妻には女の子が生まれ、マットは木版画家として成功をおさめつつあったが、従軍し、クレタ島にて戦死する。ローナは出版社を営むルーカスと再婚し、産褥で死亡する。ローナとマットの娘、モリーは継父に養育され、大学卒業後は図書館に勤め、年上の男性の子を生みシングルマザーとなる。モリーの子、ルースは祖父母に興味を持ち、クレタ島を訪れる。70年間、三代に渡る母子の年代記。

【コメント】
ペネロピ・ライヴリーのブッカー賞受賞作、Moon Tigerを読書中です。Moon Tigerの登場人物が主人公も含め、アクの強い、どちらかといえば「イヤな」人ばかりであるところ、本書は主要登場人物のほとんどが温厚な人格者で、読んでいてくたびれません。

戦争、両親の死、シングルマザーとして生きるなど、ヒロインたちの人生はタフですが、どのヒロインも志が高く、迷いがないところに好感を持ちます。裕福な家庭のお嬢様だったのに、貧しい画家と結婚して田舎に暮らし、「ウサギの皮をはいで調理できるようになったのよ」と誇らしげに語るローナや、お金持ちな年上の男性に求婚されたものの一人で娘を養育することを選ぶモリーは一見アンチ・シンデレラのようですが、この小説全体がおとぎ話のようでもあります。(運命の)相手に出会えば「すばらしい新世界」に行くことができるし、諍いも大きなトラブルもない関係を維持できる、というオプティミズムが全篇に見られます。

とはいえ、幸せな時間は長くは続かず、登場人物が良い伴侶に出会うと、いつも数年でどちらかが死んでしまいます。幸福な結婚生活の描写があるだけに別れの悲しみが強調されますが「早すぎる死による別れ」が三回も繰り返されると、波乱のない楽しい毎日では物語にならないから、死という結末にするしかなかったのだろうか、とも思います。少し安直な気もしますが、時代とともに変化しながらも、母の人生を繰り返している部分もある三人の女性の物語は穏やかな波のようで心地よいです。

この小説のキーとなる物は木版画です。本書にはマット・ファラデーと同時代の木版画家、Eric Gill, Robert Gibbings, Edward Wadsworth, Gertrude Hermesなどに言及があります。画像検索すると力強く、洗練された雰囲気の木版画の画像を見ることができます。美術館に行くと、絵画やリトグラフなどは見ても木版画にはほとんど注目したことがなかったと思いました。小学生がするようなイメージがあって子供っぽいように思っていましたが、木口木版画は高度な技術を要するもので、製作する人も多くはないので当時の木版画の価値は上がってきているそうです。

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