【書誌情報】
Tracy Chevalier, The Lady and the Unicorn, Penguin Group, 2005
【あらすじ】
『真珠の耳飾りの少女』のトレイシー・シュヴァリエによる、「貴婦人とユニコーン」(フランス、クリュニー美術館所蔵)のタペストリーにまつわる歴史小説。細密画家のNicholas des Innocent(フランス語なので読み方分からず)は裕福なジャン・ル・ヴィストからナンシーの戦いをテーマとしたタペストリーの原画を描くよう、注文を受ける。しかしル・ヴィスト夫人からは「戦いではなく、貴婦人とユニコーンのタペストリーを」と所望される。ドンファンのdes Innocentの、女中、ル・ヴィスト嬢、タペストリーの織師の盲目の娘等と恋愛遍歴を描く。タペストリー作成をめぐり、画家、注文主の夫人と娘、ブリュッセルの織師とその家族らにより物語が展開する。
【コメント】
「貴婦人とユニコーン」のタペストリーについてはジャン・ル・ヴィストが発注したということ以外は不明な点が多く、この小説はほぼ完全なフィクションです。
本書の一番良い点は読みやすさです。身分や職業、性格、住む場所の異なる7人の語り手に視点が次々と移り変わり、色とりどりな感じ飽きさせません。文章も平易で、あまり辞書を頻繁に引かなくても読めます。ドンファンの細密画家の恋愛模様を中心に展開し、それはそれでおもしろくはありますが、盲目の少女の世話する庭や、ル・ヴィスト嬢が修道院で赤ちゃんと遊ぶ場面が印象的です。若く、あまり賢くない衝動的なル・ヴィスト嬢ですが、最後に感動的なことをするのがなんとなく映画のようだと思いました。
ただ、この本の困ったところは登場人物の性格に結構イヤなところがあって、ワクワクしながら読むけれど、後味があまり良くないことです。
『真珠の耳飾りの少女』と同様、美術品の製作にまつわるストーリーですが、興味深いのは二つの小説における「青」の扱いです。『真珠の耳飾りの少女』では、青は高価なラピスラズリを原料とする憧れの色です。一方、本書では青い糸は「大青」により染められ、染料を繊維に定着させるために羊の尿が用いられます。これを扱う商人は臭いとその厚かましい性格のため、織師の一家から嫌われる存在です。彼らがタペストリーに青を多く使うことを好まなかったので、タペストリーは青の面積を少なく、赤の部分の面積を多くした旨の記述があります。
なお、トレイシー・シュヴァリエというのはフランス人のような名前で、本書もフランスとベルギーが舞台となっていますが、作者はアメリカ人です。それと、「真珠の耳飾りの少女」は現在東京都美術館で見られるようです。
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