2012年8月19日日曜日

Falling Angels, Tracy Chevalier

サフラジェットの皆さん 1913年

【書誌情報】
Tracy Chevalier, Falling Angels, Penguin Group,2001

【あらすじ】
1901年、ヴィクトリア女王崩御の日に墓地で出会ったコールマン一家とウォーターハウス一家には、共に5歳の娘がいた。近所に住んだことをきっかけとして交際し、少女たちと墓堀人の息子は墓で遊ぶようになる。美人で知的なキティ・コールマンは主婦として家庭生活に不満を持ち、墓地の管理人と不倫の関係に陥る。婦人参政権運動に参加し、家族をも巻き込むようになり…

【コメント】
トレイシー・シュヴァリエを読むのは3冊目です。不倫、犯罪、死などをややセンセーショナルに書き過ぎているきらいがありますが、文章は読みやすいです◎

1890年〜1940年頃は社会、思想、技術、文化等々あらゆる面で急激に変化し、19世紀の閉塞感、伝統的な価値観と新しい価値観が入り交じっていて、その時代を舞台にした小説はおもしろいものが多いです。1950年代以降になると、なんとなくエレガントな雰囲気が失われていくように思います。

この小説の時代設定はエドワード朝です。モードとラヴィニアの二人の少女、対照的なその母親たち、使用人、父親など、複数の人々によって物語が語られます。特に少女たちの部分が少女小説か少女マンガ風で楽しいです。一人は思慮深く温厚、もう一方は虚栄心が強く独善的で、お互い共感できる部分はあまりないのに、なかなか離れ難い関係を書いています。婦人参政権運動の恩恵は私自身も受けていますが、その運動にのめりこみすぎて周りが見えなくなると身近な人は大変です。また、使用人の「あの人たちは教育を受けた一部の女性のために運動をしているだけで、私たちのような働く女性の意見を反映しようとはしていない。にもかかわらず運動のために寄付をするように要請された」という指摘もあって皮肉です。

イギリスで男女平等の普通選挙が実現したのは1928年のことでした。アメリカは1920年、日本は1945年、そしてスイスでは1993年まで普通選挙ではなかったそうです(出典Wikipedia先生)。タイトルの「天使」はウォーターハウス一家の墓に取り付けられた天使の像を連想させますが、ヴィクトリア朝に女性の理想とされた「家庭の天使」の転落をも示唆しているように思います。

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