2017年7月30日日曜日

ベルギー奇想の系譜(展覧会)



Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「ベルギー奇想の系譜」展へ行きました。展示内容は15世紀~現代までと幅広く、ヒエロニムス・ボッスやブリューゲルなどの精密な作品、象徴主義、逆さ吊の骨格などのわけの分からない現代アートなど、盛りだくさんでした。

ボッス、ブリューゲル

ピーター・ブリューゲル父『忍耐』1557年
ポスターやチラシに印刷されているヒエロニムス・ボッスが今回のイチオシなのだろうと思います。細部までおもしろい描写で埋められていますが、小さい絵で、人気もあって混雑しているので、オペラグラスがあれば良かったと思います。先月まで開催していた、東京都美術館の「バベルの塔」展は一人で行きましたが、今回は夫も行きました。その時と同じ版画作品も多く展示されていました。「バベルの塔」は、チラシや絵葉書を見せて、私が「モンスターかわいい、琴ペン飼いたい」と騒いで、夫に悪趣味だと言われました。実物を見ると、夫もかわいいねぇ、と言っていました。

象徴主義

ヴァレリウス・ド・サードリール『フランドルの雪』1928年、アントワープ王立美術館
~17世紀のコーナーが終わると、急に人がまばらになります。それまでの大勢の観客は、どこへ行ってしまったのか、不思議なくらいです。私はモンスターも好きですが、そればかりだと嫌で、美しいものも見たいので、素通りしたらもったいないと思うのです。ジャン・デルヴィルの「レテ川の水を飲むダンテ」は美しい夢のようですし、クノップフのパステル画はローデンバックの短編を視覚化しているし、ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンクが2枚出展されていたのもうれしかったです。ヌンクは薄明かりの絵画botとしては素通りできない画家ですが、なかなかまとめて見る機会はないようです。ベルギーのクレラー・ミュラー美術館へ行ってみたいものです。

ヴァレリウス・ド・サードリールは、今回初めて知りました。静謐な冬景色を好んで描く画家です。

夫に「象徴主義って何なん?」と訊かれて答えられず、情けないことになりました。Wikipediaで調べてみると、何やら難しいことが書いてあります。「理想世界を喚起し、魂の状態の表現を特別扱いする印象や感覚を探求」??こんなこと、即答できるように準備しておかないといけないんでしょうか…

シュルレアリスム



マグリットやデルヴォーは、シュルレアリスムと美が両立していて、物語性も感じます。今回、出展されていた姫路美術館所蔵の「海は近い」(デルヴォー)も特に好きな作品です。デルヴォーの絵から、人はどんな物語を思い浮かべるのか、どうしても知りたくて、本を買いました。
  • ミシェル・ビュトール『ポール・デルヴォーの絵の中の物語』
    内容は少し難解ですし、図版が白黒なのが残念ですが、オンラインで画像を参照して、雰囲気だけでも楽しめればよいかと思います。
  • アントワーヌ・テラス『ポール・デルヴォー』
  •  長野まゆみ『夜間飛行』
    軽めの小説です。デルヴォーの他、ジョゼフ・コーネルの箱の写真なども掲載されていますが、絵と内容があまり合っていない気がします。

現代アート

 特にコメントはありません。




2017年7月2日日曜日

驚異の部屋に相応しい絵


驚異の部屋は博物館・美術館の原型なので、絵画も陳列されます。好きな絵を陳列すれば良いのですが、驚異の部屋に似合う絵と、そうでもない絵があると思います。驚異の部屋向きな絵とはどんなものか、考えてみました。気分の問題ですが、額装して、毎日目にするので、リトグラフとか、良い印刷のものだとうれしいと思いました。デジタルフォトフレームは論外です。美は、効率化とは両立しないものだと思っています。


博物画

驚異の部屋に定番の絵としては、まずは博物画があります。驚異の部屋の趣旨からしても、博物画は特にふさわしいものだと思います。鉱物画やキノコが好まれるでしょうか。ボタニカル・アートも博物画の一分野ですが、ルドゥーテのバラを好む層と、驚異の部屋愛好層はあまり重ならない気がします。天文図も人気があると見受けます。鉱物画やフィリップスの星座早見表などは、私にはとても手が届かず、持っているのは卵の図と、天文図1枚、W.Kranz作の夜の絵です。天文図は、デパートの文具売り場で額装してもらいました。地味な図版ですし、机の上にペラっと置いてあるだけではまるで有難味もないですが、額装すると見違えるようでした。野鳥の卵は、階段のタペストリーの隣に掛けています。

J.J.グランヴィル

(誰にお勧めしているのか分かりませんが)、J.J.グランヴィルは驚異の部屋にお勧めのイラストレーターです。着想がユニークで、描写は精密、美しさとグロテスクが混在しています。絵は、版画(技法は不明)に、手彩色を施しているようです。ところどころはみ出しており、そんなにうまい塗り絵ではないですが、淡い色合いが良いです。ウォルター・クレイン、ミュシャ、エルサ・ベスコフ、エルンスト・クライドルフ等の一連の花の擬人化は、すべてグランヴィルが原点なのかと思っています。

手持ちのスミレの絵は、2014年に購入し、そのまま放置していました。飾り用途の物を温存しているのは、実用品を飾っているのと同じくらい、意味のないことなので、安価な写真フレームを購入し、マット紙のみ、絵のサイズに合わせて誂えました。デパートで額装してもらう場合の1/3以下のコストで収まりますが、そこまで違うようには見えません。気に入ったフレームさえあれば、お仕着せでも良いのではないかと思います。


有名でないターナー、彗星

とはいえ、絵葉書も飾ります。整理してみたら、1000枚くらいはありそうだったので、飾らないともったいないと思いました。1枚目は、オクスフォードのウィリアム・ターナーのものです。同時代で作風も似ている、より有名なJ.M.W.ターナーとは別人で、区別するため「オクスフォードのターナー」と呼ばれます。


ベルギーのシュルレアリスム

現代に近くなると、マグリットとデルヴォーが驚異の部屋的だと思いますし、驚異の部屋愛好家はマグリット好きが多いように思います。デルヴォーと驚異の部屋のつながりは、anatomical Venusだと思います。自分の好みで言うなら、マグリットやデルヴォーはすごく良いな、と思う作品と別に興味ないわと思う作品とが半々くらいです。シュルレアリスムの画家でも、マックス・エルンスト、ダリ、デ・キリコなどは驚異の部屋とはかけ離れています。マグリットやデルヴォーの原画を飾るわけには行かないので、絵葉書で満足しています。フレームはMOMAのロイド・ライトのデザインを翻案しているものです。

来月、Bunkamuraのザ・ミュージアムで開催される「ベルギー奇想の系譜」展は多分にヴンダーカンマー的なのではないかと期待しているところです。

ところで、マグリットについて調べていて、すごいものを見つけてしまいました。「ルネ・マグリット 図録と画集に見る作品参照データベース」というサイトで、 マグリットやデルヴォーのあらゆる図録・画集を、サイズ、図版の数、内容を含め、データベース化し、検索できるようにしています。仕事で業務効率化を担当していることから、データベース構築に常に悩まされています。膨大なデータを含み、きれいに整備された、検索しやすいデータベースには心底憧れます。すばらしいデータベースだと思いました。