写真下の列はAntonia Whiteという作家の小説です。左3冊はシリーズものです。一見したところ全然関係がなさそうに見えるのは出版年が異なるためです。アントニア・ホワイトの小説の第1巻は『五月の霜』(みすず書房刊)というタイトルで翻訳が出版されています。カトリックの寄宿学校に入学した少女の学校生活を書いていますが、宗教の名の下に色々と厳しく理不尽な規則に縛られて、結構シビアな話です。
- The Lost Traveller
シリーズ2巻です。『五月の霜』から主人公の名前に変更があり、寄宿学校をやめた理由も異なるなど、完全に続編というわけではありません。ヒロインのクララ・バチェラーは経済的事情により寄宿学校をやめ、地元の学校に通います。その後、家庭教師として働きますが、教え子が自分の監督下で事故に逢うという悲劇が起こります。『五月の霜』では学校生活がテーマでしたが、この巻では主人公と両親の関係に焦点が当てられています。『五月の霜』での級友レオニーは、ニコル・ド・サヴィニーと名前を変えてちらっと顔を出します。
- Sugar House
家庭教師を辞めた後、主人公は演劇学校に行って女優になり、旅回りの一座のメンバーとして巡業します。恋人の裏切りにあい、かつて婚約破棄した男性と当てつけのように結婚しますが、お金もなく、夫はアルコールにおぼれ、しかも致命的な欠陥があったために結婚生活は次第に崩壊していき、同時にクララの精神状態も不安定になります。辛い結婚生活が詳細に書かれています。シルヴィア・プラスの『ベル・ジャー』を思わせる表現があったのが印象的です。
'...was he, too, sometimes overwhelmed by that sense of being utterly cut off from life, gasping for air inside a bell-jar? If so,did drink lift the bell-jar?'
寄宿学校時代の友達は姿を消し、役者仲間や画家など、ボヘミアンな人物が登場します。
- Beyond the Glass
夫との結婚が「成就されなかった」ため、主人公は離婚手続きを行います。別居中に知り合ったリチャードという男性と熱烈で超現実的な恋愛をし、ついに精神のバランスを崩して狂気に陥ります。ナザレト精神病院での生活と狂気の描写が生々しいです。医者が回復には何十年もかかるだろうと言ったため、恋人はクララの元を去ります。回復してからの父親との再会の場面が感動的です。
カトリックの学校で非常に厳しく教育された主人公が様々に変遷を経る内容ですが、これは作者自身の自伝的な作品だそうです。作者は3回結婚し、2回中絶を経験したようです。今、娘さんのLyndall Hopkinsonによる伝記、Notihing to Forgiveを読んでいます。ここに描かれているアントニア・ホワイトのその後は、『五月の霜』のナンダ・グレイの人物像とは正反対のようで、幼少時代に謹厳な生活を強いられた反動が強く出ている気がして興味深いものがあります。
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