2018年1月14日日曜日

The Children's Book,A.S.Byatt

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書誌情報

A.S.Byatt, The Children's Book, Chatto & Windus, 2009

あらすじ

フィリップ・ウォレンは、極貧の家庭から家出し、地下廟で暮らしていたが、美術の才能を見出され、児童文学作家オリーブ・ウェルウッドの田園地帯にある家に引き取られる。オリーブとハンフリーの夫妻はフェビアン協会の影響を受けており、芸術への造詣が深い。夏至には、親族や友人、近所の人を招待して、大規模なパーティを行う。夫妻には7人の子供がおり、いとこや友人の子供たちも交えて、多彩な人間模様を展開する。2009年ブッカー賞候補作。


所感

A.S.バイアットはノーベル賞の候補にも挙がる作家であり、1990年にはPossession(日本語訳『抱擁』)でブッカー賞を受賞しています。妹さんのマーガレット・ドラブルも作家です。代表作としては、The Virgin in the Gardenとこれに続く3冊の四部作があります。ただ、作品が専門的な細部に渡りすぎるせいなのか(?)、1作が長いからか、日本ではあまり人気がないのかもしれません。

本書は、バイアットの小説の中でも特に長いもので、登場人物も上図の通り、たくさん登場します。図に記載しているのは実際の登場人物の半分もなく、加えて、実在の人物や、近所の人や、名前だけ登場する人なども多数あります。19世紀終盤~第一次世界大戦終結にかけての子供たちの成長と挫折が物語の中心ですが、登場人物があまりに多いために、作者自身がexcel表で一人一人の管理をしていたそうです(Wikipedia)。私も、相関図を作るところから始めないと、混乱して内容を追えなかったと思います。

E.M.フォースターは『小説の諸相』で「小説を登場人物のキャラクターで読んではいけない」と書いていたと思いますが、私は、小説で一番興味があるのはキャラクターです。本書は、多数の人物が家族の秘密を知ったり、努力が実ったり、転落したり、と思えば思わぬ方から手を差し伸べられたり、多彩な色彩が入り乱れてマーブル模様を描き(ある人はタペストリーに喩え、別な人はモザイク画に喩えるようです)ます。でも、全体を通して、登場人物全員が関わる大きな事件が起きるわけではありません。そのため、単行本675頁の大長編の割に、ストーリーというものが欠落している印象はありますが、キャラクターの性格がその言動を通じて緻密に描かれるので、私はとても楽しく読みました。女の子たちが、賢く、強く、心優しいです。年末年始の休暇に、親戚の訪問もせず、年越しや年始のイベントにも参加せず、気に入っているゲオルク・ムッファトをBGMに、ひたすら読書に勤しみました。結果、至福の休暇でした。仕事がい●がしく、娯楽のための読書から少し遠ざかっていましたが、これこそが自分のしたいことだし、こういう本を読むために生きているのだと思いました。

ところどころに、非常に印象に残る記述があり、それは例えば以下のようなものです。
...there are childless marriages in which the unique pair are everything to each other, everything. They enact  the absent children, they love the child in each other, they have a capacity for play and innocence which often disappears from more fecund relations. (p.204)
(お互いにとって、相手が比類なくすべてであるという、子供のない婚姻があります。彼らはいない子供を演じ、相手の中の子供を愛します。子供に恵まれる夫婦からはしばしば消えてしまう遊びと無垢を持つ余裕があります)
 The world is full of things I don't know, and shan't know. ...I am very good at not seeking to know what does not concern me. Often it is best to remain ignorant for ever of painful things. (p.477)
(世の中は私の知らない、そして知るべきでないことでいっぱいだ。私は自分に関係ないことを詮索しないことにかけては一流なんだよ。だいたい、悲しいことは知らないでいることが一番だ)
She had sensed him an incomplete person, not in the real world, and talked to him for that reason, because there was no threat in him. Now she saw how deliberate was this absence of threat. (P.557)
(彼女は彼のことを浮世離れした、不完全な人間だと思った。彼には脅迫的なところがないが故に彼に話をした。今になって、彼女はこの脅迫的でないということがいかに慎重になされたものであるかを知った)
バイアットの小説は、これまでに、『抱擁』と、The Game,Angels and Insects,Ragnarokを(相当苦労して)読み、The Virgin in the Gardenは半分で挫折しました。本書は、これら4冊を合わせたよりも10倍くらい楽しみました。英語は難しいことは難しいですが、先を読みたくなる文章なので、あまり気になりません。自分よりも概ね100歳くらい年上の人たちの成長物語なので、100年前はこんなだったのか、という意味でも興味深いものがありました。現代に生きるのも大変なことはあるけれど、それでも、100年前よりは確実に生きやすくなっていると思いました。これくらい好きな感じのものを読むと、次に何を読めばよいのか、よく分からなくなってきます。

なお、PossessionAngels and Insectsは映画化され、共に高い評価を得たとのことです。本書も映画化されるのではないかと期待しています。

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