O Pioneers!(本)


アルベール・アンカー
【書誌情報】
Willa Cather, O Pioneers!, 1913

【あらすじ】
20世紀初頭のネブラスカに住む、スウェーデンからの移民、バーグスン(ベルクソン)一家の父親は死の床にあった。一家が開墾した農場は軌道に乗り始めており、父親は長女アレクサンドラに家族と農地を託して世を去る。アレクサンドラには弟が3人あったが、姉弟のうちで最も農場運営の才能があり、農地を広げて、一家は繁栄する。3人の弟のうちアレクサンドラのお気に入りは、知性を発揮し、大学に通う末の弟のエミルだった。エミルは幼なじみのマリーに思いを寄せるが、彼女は十台で学校を抜け出して不幸な結婚をしていた。

【コメント ネタバレあり
ウィラ・キャザーはOne of Oursで女性として初めてピュリツァー賞を受賞したアメリカの作家です。代表作は20世紀初頭のネブラスカを舞台とした「プレイリー三部作」です。O Pioneers!はその中の一つ(あと2つはMy AntoniaThe Song of the Lark)で、一番短いので、「必読中篇リスト」にも含まれていることがあります。O Pioneers!のタイトルはウォルト・ホイットマンの詩の一節です。

冒頭に登場するエミル少年は、「僕の子猫をイヌが追いかけて、子猫が電柱に登って降りられなくなっちゃった」と言って泣いています。近所の親切なカールさんに助けてもらって猫を救出します。エミルは、知り合ったばかりのボヘミア少女、マリーと一緒に、子猫にハンカチを被せて帽子にして遊びます。アレクサンドラとカールはこの件をきっかけに親交を深めます。

ウィラ・キャザーの作品には男性よりもビジネスの才覚を発揮する、独立心旺盛な女性がしばしば登場します。短篇では「トミーに感傷は似合わない」がありますし、My Antoniaの少女は仕立屋として身を立てます。本書では、アレクサンドラは農場を成功させ、農地を拡大して金銭的には不自由がなくなります。好意を寄せていたカールは、芸術を志して都会へ行きますが、戻ってきてアレクサンドラと旧交を温めると、弟たちは「財産目当てだ!あんな奴と結婚すべきじゃない」とアレクサンドラに進言します。
"Alexandra! Can't you see he's just a tramp and he's after your money? He wants to be taken care of, he does!"
"Well, suppose I want to take care of him? Whose business is it but my own?"
"Don't you know he'd get hold of your property?"
"He'd get hold of what I wished to give him, certainly."
カールはアレクサンドラに扶養されるのは面目ないと言って、自分で身を立てるべくアラスカへ行きますが、こう言いきれるヒロインは潔いです。キャザーの小説の魅力は、率直で真摯で、シンプルな言葉遣いで読者の眼をまっすぐに覗き込むようにして語るところにあると思います。これは、哲学的で婉曲的で難解な文章を書く、キャザーより11歳上のイーディス・ウォートンとは対称的な特徴であるように思います。ウォートンもまた、高く評価され、よく読まれている作家ですが、キャザーとは作品のみならず、生まれや容姿までまるで正反対です。

アレクサンドラの秘蔵っ子であったエミルは、幼なじみのマリーとともにロミジュリを思わせる悲劇的な最期を遂げます。登場したときかわいらしい様子だっただけに、悲劇性が際立ちます。恋人たちの最期はやや唐突でドラマチックに過ぎるように思われますが、本書の秀逸なところは二人の悲劇にからめて、移民の疎外感とその土地への同化を扱っていることです。アレクサンドラと、罪を犯した隣人のフランクは勤勉に土地を開墾していたことにおいては同じだったのに、しっかりとアメリカの大草原に根ざしているアレクサンドラに対して、ボヘミアからの移民であるフランクは土地に馴染まず、事件をきっかけとして、弱々しく張っていた根もすべて枯れてしまったかのようです。そのことは、それまで流暢に英語を話していたのに、投獄されると別人のようにボロボロな英語しか話せなくなることに顕著に現れています。
People have to snatch at happiness when they can, in this world.It is always easier to lose than to find.
悲しみにくれながらも、幸福をつかもうとするアレクサンドラの姿に、一条の光が見えるようです。

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