A Separate Peace(本)

Phillips Exeter Academy, 1903 出典Wikipedia
【書誌情報】
John Knowles, A Separate Peace, Secker & Warburg, 1959

【あらすじ】
第二次世界大戦中の、ニューイングランドの名門寄宿学校を舞台とした青春小説。ニューハンプシャーのデヴォン・プレップ・スクールにて、ジーン・フォレスターはスポーツ好きで人気者のフィニアス(フィニー)とルームメイトになる。フィニーは天性のリーダーシップがあり、ゲームや秘密結社を作り、明るく素直な性格と話術で人々を魅了する。ジーンはそんなフィニーの親友となったことを喜ぶ一方で、クラスで一番の成績を取ろうとする自分の勉学をフィニーが阻んでいるのではないかと疑い、二人で川辺の木に登って川に飛び込む遊びをしていたときに枝をゆすり、フィニーは後遺症の残る大怪我をする。

【コメント ネタバレあり
高校生を主人公としたこの作品は、アメリカの高校では課題図書としてもよく取り上げられ、広く読まれているようです。日本語訳も出版されていますが、やや戦争称揚しており、しかも敵は日本であるためか、あまり読まれていないように見受けます。日本で大人気の『ライ麦畑でつかまえて』のようにプレップ・スクールが登場しますし、少年が多く登場する青春小説なので、再版されればもっと読まれるのではないかと思います。戦争の暗い影とまぶしいような学校生活の思い出が抑制された語り口で書かれています。

成績優秀で、内向的なジーンは、人気者のフィニーとルームメイトになり、一緒に学校を抜け出して海辺へ遊びに行ったり、「秘密結社」(木から川に飛び込むだけ)のメンバーになったりします。ジーンはフィニーと仲良くなりますが、一瞬の気の迷いから取り返しのつかない事故を起こし、すぐに後悔します。

フィニーのキャラクターが魅力的です。事故により脚に後遺症を負い、強く望んでいたのに志願できないことを嘆くフィニアスに、主人公は言います。(適当な和訳です)

「君はどこかの前線に配置されて、戦いは小休止状態になるだろう。そして、君はドイツ人かジャップに混じって、 やつらに、アメリカと試合をするために野球チームを作らないか、と尋ねるのさ。君は彼らを指導者となって、彼らに英語を教えるんだ。そうさ、君は混乱して彼らの軍服を借りて、自分の軍服は彼らに貸してしまうんだ。君は物事をひどくかき回して、誰もが、誰を敵として戦ったらいいのか分からなくなるだろう」
フィニーは「世界を奇妙な、個人的な基準で測って、岩のような事実をふるいにかけ、一度に混乱と喪失を感じずに吸収できるだけの少量しか受け入れなかった。私が会った他の誰もこのようにはできなかった」とジーンに評されます。ジーンと同級生たちは卒業すると志願せざるを得ず、「世界に途方もない敵意をもった物事が存在することを感じ始めると、その性格の単純さと一貫性は壊れ、元に戻ることはなかった」。美しく、戦時下でも平和な学校生活の終了と、フィニーを失ったことはジーンにとっては夏の日のような少年時代の終焉を意味しました。結局、ジーンが実際に戦争に赴く前に終戦となったので、前線には出ませんでしたが、学年で一番に志願するものの、訓練の厳しさから狂気に陥る同級生のリーパー少年の姿に学校の外の世界の過酷さが表れています。

登場人物はよく笑い、泣きます。フィニーに関連する笑いは楽しく、陽性の笑いですが、彼と離れたところでジーンやリーパーが笑うとき、それは空虚で狂気につながる笑いです。フィニーは怪我をして、杖をついて歩くようになっても泣きませんが、手術の前に一度だけ泣くシーンが切ないです。ジーンは親友の死の後、一度も泣きません。フィニーのお葬式の時「私はこれは自分の葬式だという感じから逃げられなかった。自分の葬式で泣く人はいない」と言います。フィニーの死と同時にジーンの一部分、あるいは一時代は実際に「死んだ」のだろうと思います。

本書は2004年にテレビ映画化されていて、私は映画を先に見ました。全部合わせても女性の登場時間が2、3分というクィア映画です。女性に対する好奇心も、同性愛要素もほとんどなく、ティーン男子の友情がきれいに描かれています。フィニー役のトビー・ムーアが驚きの格好良さです。美形で、育ちと性格の良さがあらわれて、キラキラしているように感じました。寄宿学校の重厚な石造りの建物にはニューイングランドらしさを感じます。

本書に登場するデヴォン寄宿学校のモデルとなっているのは、作者ジョン・ノウルズが卒業したニューハンプシャーのフィリップス・エクセター・アカデミーだそうです。名門校で、年間授業料は45,000ドル(450万円)だそうです(高い!)。

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