『ジェーン・エア』と幽閉

Rebecca Solomon, 'Governess'

新しい『ジェーン・エア』映画を観て、小説は「幽閉」、「閉じ込められる」が主要テーマになっていると思いました。

  1. 罰としての「幽閉」
    孤児であるヒロインは叔母に養育されるが、従兄のジョン・リードと喧嘩をし、罰として赤い部屋に幽閉され、恐怖を味わう。
  2. ヘレン・バーンズ
    主人公は叔母の家で邪魔者扱いされ、貧しい家庭の少女のための過酷な寄宿学校に送られる。ヘレン・バーンズと出会い、仲良くなるが伝染病の流行でヘレンは若くして死亡する。ヘレンは死が現世的な苦しみからの開放である、と語る。少女達を閉じこめ、理不尽な規則で拘束する場としての学校。
  3. 家庭教師という立場
    ヴィクトリア朝の家庭教師は安い賃金で一日中酷使される立場であった。賃金はコックよりも安かったとも言われる。教育を受けており、使用人(メイド等)よりは多少は地位が高かったとはいえ、女性の就労の機会は限られており、貧しい女性が運悪く結婚できなかった場合は一生家庭教師として裕福な家庭に仕えるしかなかった。いわば、運命に閉じ込められているようなものではないだろうか。
  4. ロチェスターの妻バーサ、屋根裏部屋の狂女
    結婚後、狂気に陥り屋敷の一室に閉じ込められるバーサ。火を見ると興奮し、火事を起こす危険性があるため、監禁されている。精神病院に送られるよりもまし、とのことだが、酒癖の悪い看護婦に付き添われ、ほとんど動物のごとき(むしろ動物よりもたちの悪い)存在として描写される。
  5. 開放
    重婚させられそうになった事実を知ったジェーンは、ロチェスターの屋敷を抜け出し、荒野をさまよう。運良く、親切な牧師セント・ジョン・リヴァースとその妹たちの庇護を受けることができたが、財産も身寄りもない女性が一人で放り出されるということは、当時はそのまま「堕ちた女」になる危険性が高かっただろう。宣教師としてインドへ渡るセント・ジョンに求婚されるが、「ジェーン」と呼ぶ「声」に止められる。「声」は超現実的なもののようであるが、「自分の本来の意志と反するようなことをしてはならない」というヒロインの本能であったのだろう。
  6. 立場の逆転
    ロチェスターと結婚したジェーンは、かつての教え子アデールを邪魔者とばかりに寄宿学校に送る。これまで、抑圧され閉じ込められる存在であったジェーンは、遺産相続及びロチェスターとの結婚により経済的安定と地位(権力?)を手に入れ、他者を「閉じ込める」側の者に変化した。すなわち『ジェーン・エア』においては、力を持っている者は他人を「閉じ込める」ことができるが、金銭的に無力で後ろ盾のない存在は、自らの意志に反して「閉じ込められる」者である。



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