医薬品業界関連の読書

こんな良いものではありません
New York Timesのオキシコンチン訴訟の記事を読みました。製薬に近いところにいるので、オピオイド危機や、製薬会社の利益構造について、知っておいた方が良いと思いました。関連書籍を読みました。

  1. Marcia Angell, The Truth About the Drug Companies: How They Deceive Us and What to Do About It, Random House, 2005 この手の書籍では定番のようです。20年近く前のデータですが、Fortune 500の上位10社の製薬会社の利益総額は、他490社の利益総額と同等とのことです。その利益構造はどうなっているか。研究開発よりも宣伝広報にコストをかける。既存の薬と効果がほとんど同じme-too drugでパテントの延命を図る。医師に種々の便宜を図り、薬の効果について、医師名義でゴーストライターに論文を書かせる。等があるそうです。
  2. トム・ウェインライト『ハッパノミクス』、みすず書房、2017年 オピオイド系鎮痛剤は高価な処方薬であるため、依存症に陥ると、安価なヘロインに手を出し、オーバードーズで命を落とす人が後を絶たないとのことです。米国にヘロインその他の麻薬を流通させている中米の麻薬カルテルに取材し、経済学的観点から分析をしています。麻薬は合法化した方が合理的、ということですが、それだけではオピオイド危機対策の観点はないです。
  3. Beth Macy, Dopesick: Dealers, Doctors, and the Drug Company that Addicted America, Little, Brown and Company, 2018 米国のオピオイド危機は、オキシコンチン等のオピオイド系鎮痛剤が多く処方されるようになったことに端を発します。これまでに、数十万人がオピオイド依存症をきっかけとして亡くなっています。薬欲しさに窃盗、売春、不要な抜歯などをし、注射器の使い回しで、HIVやC型肝炎に感染することもあるようです。亡くなった方の家族に取材しており、NYTの記事の拡大版という感じです。「好奇心で麻薬を使うのが悪い」と言われることがよくあると思いますが、オピオイド危機は、始まりが医師の処方する鎮痛剤ですから、同じことは到底言えません。
  4. Patrick Radden Keefe, Empire of Pain: The Secret History of the Sackler Dynasty, Picador, 2021 上記3番は、オピオイドやヘロイン依存症にフォーカスを当てた取材です。本書は、依存症の原因となったオキシコドンが、広く市場に普及し、製薬会社が巨大な利益を得た経緯を詳細に追います。その後オピオイド危機は社会問題化し、訴訟は今年2月に一応の終結を見たのかもしれませんが、問題は根深く、解決には程遠いようです。パーデューがFDAと癒着して承認を取得し、依存性がなく、強力な効果があると喧伝して、大々的・合法的にオキシコンチンを販売した結果が、オピオイド危機ですから、やはり麻薬合法化など論外では、と思いました。2021年にBaillee Gifford Prize for Non-fictionを受賞し、バラク・オバマの推薦図書にも取り上げられていました。
  5. デイヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟』、みすず書房、2005年 大手製薬会社にとって、抗うつ薬は収益性が高い商品です。しかし、治験は恣意的に操作されたり、効果はプラセボと大差なかったりするようです。著者は精神科医で、製薬会社等のデータを検証し、抗うつ薬が自殺念慮を惹起すると主張し、業界に波紋を呼びました。専門的な内容もあって、難しいですが、読みごたえがあります。
  6. エリオット・ヴァレンスタイン『精神疾患は脳の病気か?向精神薬の科学と虚構』みすず書房、2018年 5番よりもさらに難しいです。全部理解しようとしても無理なので、辛うじて理解できる後半だけを読みました。特に6章「製薬業界はいかに精神障害の薬を宣伝し化学説を推し進めたか」は、他の本とも重なる内容ですが、分かりやすいです。
  7. ロバート・ウィタカー『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』福村出版、2012年 大人だけでなく、ADHD等と診断された子供にも、精神科治療薬はよく投与されます。精神科の薬は、そもそも2,3割程度の人にしか効かないとも言われているところ、効果が出ないと、どんどん薬を増やされ、薬漬けになった先に待っているのは、というドキュメンタリーで、救いがないです。
  8. イーサン・ウォッターズ『クレイジー・ライク・アメリカ: 心の病はいかに輸出されたか』紀伊国屋書店、2013年 日本で、1990年代からうつ病の診断が爆発的に増えたそうです。精神疾患の認定が増えたのは、実は大手製薬会社が販売促進のために行ったキャンペーン(「鬱は心の風邪」はキャンペーンの一環です)の結果である、という話です。

試験対策としては、参考書はあれこれ手を出さずに、基本書一冊を反復すべき、とよく言われていて、それが良いのだろうと思います。一方、趣味の読書は、同じテーマを色々な視点から書いた何冊かを読むと、理解が深まるのかなと思いました。

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